クリプトスポリジウム等原虫疾患に関する
情報・資料集

クリプトスポリジウム症
ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)
サイクロスポーラ

厚生科学研究費補助金
新興・再興感染症研究事業

クリプトスポリジウム等の原虫類による食品及び環境の汚染除去と感染 対策に係る研究班
(主任研究者:遠藤卓郎国立感染症研究所寄生動物部室長)

原虫類の診断治療に関する情報収集と分析に関する分担研究班
(分担研究者:増田剛太東京都立駒込病院感染症科部長)

〈序〉

 従来はその存在が知られていなかった感染症(新興感染症)、あるいは一時的に制圧されていたが最近になって再び流行を開始し、人類への脅威となった感染症(再興感染症)が世界的に注目される。国際化が進行したわが国にあって、これら疾患の一部分は輸入感染症として、さらに、他の部分はすでに国内に定着した疾患として臨床的な対応を迫られるだけでなく、その中には食品衛生・水質管理など多方面的な問題提起を示すものもある。

 本小冊子ではヒトの腸管に寄生し下痢症の原因となるクリプトスポリジウム、ジアルジ ア、サイクロスポーラによる感染症をとりあげた。今日みられる多くの下痢症が細菌性であるため、診断方法が異なるこれらの原虫性疾患の診断は困難なことが多い。とくに新興病原体であるクリプトスポリジウムやサイクロスポーラはその検査方法がまだ一般化しておらず、確定診断に至らないこれらの病原体感染症例を散見する。

 わが国では1999年4月から感染症に関する新たな法律のもとに感染症の治療、予防対策が推進されることになったが、その円滑な運用の前提となるのは病原体の正確な同定、診断確定と発生・流行状況の迅速な把握である。今回の資料集が腸管系原虫症の診断、治療、予防等に貢献するであろうことを期待する。

 厚生科学研究費補助金、新興・再興感染症研究事業「クリプトスポリジウム等の原虫類による食品及び環境の汚染除去と感染対策に係る研究班」  原虫類の診断治療に関する情報収集と分析に関する分担研究班

増田剛太(東京都立駒込病院感染症科部長)



目次
T.各疾患の概要
クリプトスポリジウム症の概要
ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)の概要
サイクロスポーラ症の概要
U.各疾患に関する情報と資料
クリプトスポリジウム症
ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)
サイクロスポーラ症
附録
附1 さらに詳しい情報の入手方法

附2 広報資料の例示
 1. クリプトスポリジウム編
 2. ジアルジア編
 3. サイクロスポーラ編

附3 カラー写真
執筆者一覧


T. 各疾患の概要



クリプトスポリジウム症の概要



《クリプトスポリジウム症の新興と世界的流行》
 クリプトスポリジウムは従来からウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミなどの腸管内寄生原虫として知られてきた(右写真)。ヒト感染例は1976年に初めて重症腸炎症例が報告され、1980年代に入ってからは後天性免疫不全症候群(AIDS)での致死性下痢症の原因微生物として注目された。さらに、この原虫(Cryptosporidium parvum)は免疫機能正常者にあっては一過性であるが、さまざまな程度の非血性水様下痢症の原因となることが明らかとなった。本原虫感染症は代表的な新興感染症の一つである。
 クリプトスポリジウムによる感染症に関しては、これら散発下痢症例だけでなく、水道水を介した集団発生が問題となる。欧米諸国、とくに米英両国では1980年代中頃から毎年のように、この原虫による集団発生が報告されるようになった。その中でも最大規模であったのは1993年に米国ウィスコンシン州ミルウォーキー市南地区で人口80万人のうち40万人余が感染した事例であり、その感染は汚染した水道水を媒体としたものであったことが知られている。わが国の集団発生としては1994年に神奈川県平塚市の雑居ビルでの460人余の患者発生が、さらに1996年には人口14,OOO人弱の埼玉県越生(おごせ)町で町営水道水が原因となり8,800人余が下痢を発症した事例が記録されている。


ネズミの小腸にに寄生したクリプトスポリジウム


《臨床症状》
(1) 免疫機能正常者:免疫機能正常者に発症した症例の臨床症状では、下痢(主に水様下痢)、腹痛、倦怠感、食欲低下、悪心などが挙げられ、発熱(37℃代の微熱が多い)を伴う例もある。原因微生物が検出されない下痢症の診療にあって、散発例で、特に発展途上国からの帰国者ではジアルジア症やウイルス性下痢症とともにクリプトスポリジウム症を考えるべきである。下痢は非血性で、一日数回程度から20回以上の激しい症例までさまざまであるが、数日から2〜3週間持続する。抗生物質は無効であるが、免疫機能正常者では自然治癒する。海外旅行からの帰国者の下痢(旅行者下痢症)では赤痢菌、病原大腸菌、サルモネラなどとの混合感染も見られるため、これら既知の腸管系病原体を検出した症例にあっても、説明のできない腹部症状が持続する場合にはクリプトスポリジウムの関与をも考えるべきである。また、集団下痢症にあっても通常の病原体が検出されない場合には、本症である可能性をも念頭に置いて検査を進める必要がある。
(2)AIDS患者:本原虫による一カ月以上続く下痢症はAIDS発症の指標疾患である。すなわち、この原虫は免疫不全宿主に重症・難治性・再発性・致死性下痢症を発症させる。下痢は非血性であり、その程度は軟便・泥状便から水様便までさまざまであるが、免疫不全の進行とともに重症化する傾向がある。重症例ではコレラに見られるような大量の水様便や失禁を伴う症例も報告され、このような例では本感染症が患者の直接死因となることが多い。症例の治療にあたってはいくつかの有効性が期待される薬剤が使用されるが、たとえ効果が証明されても一過性であり、多くの場合に再発、再燃が観察される。現在最も効果が高いとされる薬剤は硫酸パロモマイシンであり、投与により下痢便中の原虫数は減少するが完全に消失するわけではなく、免疫不全の進行や投薬の中止とともに症状が増悪する。ヒトに感染し発病させるクリプトスポリジウムは原則としてC. parvumであるが、AIDS患者ではまれにC. baileyiC. murisの感染が報告されている。また、正常宿主での感染部位は腸管、とくに小腸であるが、AIDS患者では腸管外病変として胆嚢、胆管や呼吸器系疾患も報告されている。

《治療》
 免疫機能正常者での本症は抗微生物薬による特異療法を行わなくとも下痢症は自然治癒する。下痢の程度が軽度である場合には、非特異的治療法である@食餌制限とA水・電解質の摂取(世界保健機関(WHO)処方によるORS,Oral Rehydration Saltが効果的。いわゆるスポーツ飲料水がこれに近い組成である)を行う。これに加えて鎮痙剤、激しい下痢症例ではロペラミドなどの止潟剤も用いられる。
 AIDSに合併した症例の長期間持続する下痢症に対しては、硫酸パロモマイシン(2グラム・3週間、経口投与。未承認適用症のため保険適用外である。)が行われる。症状が寛解した段階で硫酸パロモマイシンの維持投与を行うこともある。

《原虫の検出》
 遠心沈殿法(MGL変法)やショ糖浮遊法により集オーシストを行い、蛍光抗体法、抗酸染色、ネガティブ染色などにより染色標本を作製して観察に供すことが望まれる。もっとも高い検出感度の期待できる方法は蛍光抗体染色で、簡便な染色用キットが市販されている。(検査用試薬として未承認のため保険適用外である。)

《感染予防》
 米国で行われた人での感染実験では130個程度の経口摂取で半数の人が感染したと報告されるほどクリプトスポリジウムは強い感染力を持つ。ちなみに、1個のオーシストの摂取で感染する確率は0.4%と計算されている。この原虫は水中で数カ月間は感染力が保持され、しかも直径4〜5μmと小型であるため浄水場における通常の浄水処理で完全に除去することは困難とされる。さらに、塩素消毒にも抵抗性であることから水道に用いられている消毒では死滅しない。ただし、現状の浄水処理においては、水道水を媒体とした感染を防止できるレベルにするため濁度管理の徹底が行われている。今後、膜ろ過やオゾン処理等水道水からの原虫の除去や不活化に関する技術の導入や新たな技術開発が待たれる。HIV感染者を初めとする免疫機能低下症あるいは将来的にその可能性を持つ者にあっては、可能な限りナマ物や煮沸消毒(72.4℃以上、1分間)されていない水道水の摂取は避けるべきであろう。

ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)の概要



《ジアルジア症の疫学的状況》
 ジアルジア(Giardia lamblia)はヒトの急性ないし慢性の下痢を初めとする腹部症状の原因となる原虫である。今日の感染者数は世界人口のうち数億人を占めるとされ、地球規模で見ればごくありふれた腸管系病原微生物である。感染者の大部分は発展途上国に集中する。わが国でのかつての感染状況に関しては、1949〜1956年にかけての北海道から沖縄までの日本各地での米軍による調査では、当時のジアルジアの感染率は3〜6%であったと記載されている。その後、日本国内の上下水道の整備等の衛生環境の改善とともに減少し、今日の都市部での検出率は0.5%を下回る程度となっている。
 現在のわが国でのジアルジア感染者の多くは発展途上国からの帰国者(来日者)であり、特にインド亜大陸からの帰国者の下痢患者での検出率が高い。さらに、男性同性愛者間にも本原虫の流行が見られ、最近ではHIV感染者等にこの原虫感染が証明されることが多い。過去数十年間にわたって目立った感染者の発生をみなかったこのジアルジア症は今日のわが国では忘れ去られた感染症の一つであるが、近年増加傾向にあるため、再興感染症の一つとして認識する必要がある。

《臨床症状》
 ジアルジア症の主な臨床症状としては下痢、衰弱感、体重減少、腹痛、悪心や脂肪便などが挙げられる。有症症例では下痢が必発であり、下痢は非血性で水様ないし泥状便である。排便回数は一日数回程度から20回以上と様々であり、腹痛は伴う例と伴わない例が相半ばし、多くの症例で発熱は見られない。なお、分泌型IgA低下症や低ガンマグロブリン血症をもつ生体に発症したジアルジア症ではその臨床症状が激しく、難治性であり、かつ再発性である。


ジアルジア栄養体


《原虫の検出》
診断は患者の糞便(下痢便)から顕微鏡下に本原虫を証明することにより得られる。さらに、原因不明の下痢症、脂肪便やその他の腹部症状の精査の一環として十二指腸液や胆汁を材料に原虫の検査が行われることもある。ジアルジアの栄養体の大きさは体長15〜17μm、幅5〜7μmで左右対称の洋梨型を示す(右写真)。猿の面容に似た形態を有するためモンキーフェイスとも形容される。シスト(嚢子)は8〜12×5〜8μmの楕円形で、成熟したシストは4個の核を持つ。

《治療》
ジアルジアの治療にはメトロニダゾールやチニダゾールなどが用いられる(未承認適用症のため保険適用外である)。



サイクロスポラ症の概要



《サイクロスポーラ症の疫学的状況》
サイクロスポーラ(Cyclospora cayetanensis)は従来からCyanobacteria−like bodies(CLB)やその他の名前で呼ばれ、らん藻類の一種ではないかと考えられていたが、1993年に原虫であることが確認された。この病原体はヒトの腸管内、とくに小腸粘膜上皮細胞に寄生・増殖し、数カ月間にわたって増悪・寛解を繰り返す慢性下痢症の原因となる。下痢便とともに体外に排出されたサイクロスポーラのオーシストは直径が8〜10μmの球形構造物(内部に穎粒を含む)であり、外界で5〜l1日かげて成熟した後に飲料水や飲食物とともに経口的に取り込まれることにより新たな宿主へと感染する(次写真)。
サイクロスポーラ感染症の散発例は、今日、発展途上国のみでなく先進国からも報告される。感染を媒介するものとしては汚染飲食物が多く、1996〜1997年にかけて米国とカナダで輸入された木イチゴ、バジルなどによる広域集団発生が報告された。この感染症は春から夏にかけて多発する傾向が指摘される。


サイクロスポーラオーシスト


《臨床症状》
本症の潜伏期は平均1週間(2〜12日)である。臨床症状は下痢(非血性、水様)、食欲不振、倦怠感、体重減少、鼓腸、腹痛などが主であり、発熱を伴う例もある。下痢症としてはクリプトスポリジウム症やイソスポーラ症とよく似ているが、サイクロスポーラ症は免疫機能正常の者にあっても、より長期間にわたり症状が断続的に出没する点が異なる。

《原虫の検出》
この原虫の検出は患者糞便から顕微鏡下に特徴ある形態のオーシストを証明することによるが、オーシスト壁がネオンブルーの自家蛍光を発するため、蛍光顕微鏡を用いての確認も行われる。

《治療》
免疫不全者(AIDSなど)に長期間持続する重症下痢症が発症し、細菌をはじめとする既知の腸管系病原微生物が検出されない症例にあっては本原虫症である可能性をも考えて診療を進める。サイクロスポーラに対してはST合剤(成人量:TMP160mg/SMX800mg/回。未承認適用症のため保険適用外である。)一日2〜4回、7〜10日間を投与する。AIDS患者に対しては再発・再燃の予防を目的としてST合剤を週3回程度投与することも行なわれる。



U. 各疾患に関する情報と資料



クリプトスポリジウム症


1.発生状況(国内、国外)
国内:集団発生としては、1994年に神奈川県平塚市の雑居ビルで店舗内の従業員と客を含む関係者のうちで調査対象の736人中461人が発症した事件と、1996年に埼玉県越生町で人口14,000人弱のうち8,800人以上が発症した事例が挙げられる。散発例の報告はきわめて少なく井関の集計による1986年から1997年1月までの症例数は37であり、背景因子として多かったのは海外旅行者(熾、AIDS患者(吻、獣医学関係学生(感染牛との接触)(9)であった。

国外:とくに米国と英国から毎年のように水道水を介した集団発生が報告される。その中 でも最大規模を示したのは1993年米国ミルウォーキー市での事例であり、同市の南地区 住民80万人人口のうち40万人余が罹患し、AIDS症例を中心として多くの犠牲者がでた。 さらに、汚染した食物による小規模集団発生例も報告されている。

散発例:先進国、発展途上国を問わず正常宿主での下痢症例の数%からクリプトスポリジ ウムを検出すると報告される。米国疾病管理センター(CDC)の報告によれば途上国で は下痢症の6.1%が、先進国では2.1%がクリプトスポリジウムに起因していたと言う。 また、HIV陽性者ではそれぞれ下痢症の24%および14%が本原虫によるものであった と報告されている。下痢症を罹患していない場合にはいずれのグループでもクリプトス ポリジウムの感染率は低い値であった(下表)。

先進国および発展途上国における健常者および
HIV陽性者に認められるクリプトスポリジウム感染
下痢症罹患者正常便排出者
健常者
 先進国
 発展途上国

2.2%(0.26−22%)
6.1%(1.4−40.9%)

0.2%(0−2.4%)
1.5%(0−7.5%)
HIV陽性者
 先進国
 発展途上国

14%(6−70%)
24%(8.7−48%)

0%(0−0%)
5%(4.9−5.3%)
(after Guerrant R.L.1997)


2.感染源と伝播様式
感染源は汚染された飲食物、水道水、湖水、患者・患畜の糞便。また、水泳プールでの 感染が報じられている。伝播様式は経口感染(糞口感染)である。

3.潜伏期、伝染可能な期間など
潜伏期:5〜10日。
伝染可能期間:寄生宿主から排出されたクリプトスポリジウムのオーシストはすでに感染 性を有している。オーシストは水中で数カ月間感染性を保持し、冷所では1年以上生存 するとされる。ヒトでのこの原虫症による一日の下痢便中のオーシスト数は10億個、ウ シでは100億個に達するとされる。従ってオーシスト排出者が存在すると、汚染された 飲食物や直接、間接の糞口接触によって長期間感染性が存続する。
発症率:少ない原虫数(≦100個)で感染が成立して発病する。そのため水道水が汚染されると飲用者間に発症者が高率に証明される。米国ミルウォーキー市(1993年)の事例では暴露を受けた住民の53%におよぶ40万人余が、わが国の埼玉県越生町(1996年)の例でも住民の約70%近くの8,800人余が汚染水道水によって発症した。

4.ヒトの感受性
正常宿主、免疫不全宿主に拘らず感受性であり、幼若者ほど感受性が高い。生体内では 腸管、とくに小腸に寄生するが、AIDSでは膵臓、胆道、胆嚢、呼吸器からも報告される。

5.病原体
病原体はCryptosporidium parvumである(31ページ、カラー写真A−1,2)。AIDS患者 ではC. baileyiによる感染の報告もある。




図 クリプトスポリジウムの生活史
クリプトスポリジウムはヒトやその他のほ乳動物の小腸に寄生し、無性生殖により増殖する。やがて、有性生殖によりオーシストを形成する。オーシストは糞便とともに外界へ排出され、水や食品を汚染する。


6.宿主
 C. parvumはヒト、ウシ、イヌ、ネコ、ネズミなど、現在までにおよそ80種類の動物が 宿主として報告されている。

7.患者検体の検査
 クリプトスポリジウムの診断は検便でオーシストを検出することによる。急性期の患者 便のような多数のオーシストを含む試料であっても、オーシストがきわめて小さいために 通常の顕微鏡観察では見落とされる危険がある。したがって、遠心沈殿法(MGL変法)やショ糖浮遊法により集オーシストを行い、蛍光抗体法(32ページ、カラー写真A−3a)、 抗酸染色(同、A−3b)、ネガティブ染色(同、A−3c)などにより染色標本を作製して観察に供すことが望まれる。もっとも高い検出感度の期待できる方法は蛍光抗体染色で、簡便な染色用キットが市販されている。(検査用試薬として未承認のため、保険適用外である。)
 検査法の一例として、遠心沈殿法と蛍光抗体法を組み合わせた術式を以下に示した。詳しくは別途参考書を参照されたい。

1 検体0.5−1gをスピッツ型の遠沈管に取り、10%ホルマリン水を7m1程度加えて攪拌棒で十分攪拌する。
2 20−30分室温に放置し、固定する。
3 再度、よく攪拌してから2枚重ねのガーゼでろ過し、ろ液に酢酸エチルを2−3m1加えて、栓をして激しく混和する。
4 速やかに遠心沈殿(2,500rpm、5分間)する。
5 液は上から酢酸エチル層、浮遊糞便層、ホルマリン層、及び沈渣に分離する。
6 浮遊糞便層をていねいに除去してから液層を除去して沈渣を回収する注)。
7 沈澄をスライドグラスに塗抹し、よく(充分)乾燥させる。
8 燐酸緩衝生理食塩水液で洗浄する。
9 水を切ってから、湿箱に入れ、蛍光抗体試薬を試料塗布面に添加して、遮光して室温で30分程度反応させる。
10 洗浄液で軽く洗浄して、封入剤を添加してカバーグラスをかける。
11 蛍光顕微鏡下(B励起)で観察する。
12 緑色のFITC特異蛍光で標識された5μm前後の粒子を検出する。
注)本試料を他の染色法、またはショ糖浮遊法に適用することができる

〔用語解説〕

遠心沈殿法
 主に糞便内の蠕虫類の虫卵や原虫類の(オー)シストの分離・回収に用いられる手法の総称。目的に応じて種々の改良がなされており、ホルマリン・酢酸エチル法(MGL変法)をはじめ数種類の方法が知られている。ホルマリン・酢酸エチル法は便をホルマリン水で溶き、一定時間固定、ガーゼでろ過後に遠心沈殿により沈渣を回収。その後に酢酸エチルをくわえて強く混和、再び遠心沈殿する。その結果、上から酢酸エチル層、浮遊糞便層、ホルマリン水層、及び少量の沈渣に分離する。虫卵や(オー)シストは最下層の沈渣に回収される。

浮遊法
 糞便中の(オー)シストや虫卵の分離・回収法の1つで、便を高比重の液に溶き、静置することで浮遊してくる(オー)シストなどを回収する手法の総称。用いる液の組成により飽和食塩水浮遊法、硫苦・食塩水浮遊法、ショ糖液浮遊法などの名前で区別されている。

密度勾配遠心法(遠心浮遊法)
 浮遊法と遠沈法の両者の利点を生かした方法で、比重の異なった液を重層して遠心沈殿し、(オー)シストなどを特定の比重層に濃縮・回収する方法。

8.環境検体の検査
 河川水など環境中のクリプトスポリジウム汚染の検査もオーシストを検出することによる。試料水中のオーシスト濃度はきわめて希薄なことから、標本作製には濃縮(水道原水で10L、水道水では20Lを濃縮)、分離、蛍光抗体染色の各操作が必要となる。詳しくは厚生省から出ている「水道に関するクリプトスポリジウムのオーシストの検出のための暫定的な試験方法、厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課長通知、衛水第49号、平成10年6月19日」を参照されたい。また、野菜などの検査は、試料の洗浄水を濃縮して用いる。

9.一般の症状、診断、治療
 免疫機能正常者に発症した症例の臨床症状では、下痢(主に水様下痢)、腹痛、倦怠感、食欲低下、悪心などが挙げられ、発熱(37℃代の微熱が多い)を伴う例もある。原因微生物が検出されない下痢症の診療にあって、散発例で、特に発展途上国からの帰国者ではジアルジア症やウイルス性下痢症とともにクリプトスポリジウム症を考えるべきである。下痢は非血性で、一日数回程度から20回以上の激しい症例までさまざまであるが、数日から2〜3週間持続する。抗生物質は無効であるが、免疫機能正常者では自然治癒する。海外旅行からの帰国者の下痢(旅行者下痢症)では赤痢菌、病原大腸菌、サルモネラなどとの混合感染も見られるため、これら既知の腸管系病原体を検出した症例にあっても、説明のできない腹部症状が持続する場合にはクリプトスポリジウムの関与をも考えるべきである。また、集団下痢症にあっても通常の病原体が検出されない場合には、本症である可能性をも念頭に置いて検査を進める必要がある。
 免疫機能正常者での本症は抗微生物薬による特異療法を行わなくとも下痢症は自然治癒する。下痢の程度が軽度である場合には、非特異的治療法である@食餌制限(量を少なくする、粥やパンなどの消化の良いものを中心とする、激しい下痢では禁食、など)とA水・電解質の摂取(世界保健機関(WHO)処方によるORS,Oral Rehydration Saltが効果的である。いわゆるスポーツ飲料水がこれに近い組成である)を行う。これに加えて鎮痙剤激しい下痢症例ではロペラミドなどの止潟剤も用いられる。

10. 我が国における集団発生事例
埼玉県越生町における集団発生事例について
概要:1996年6月の埼玉県越生町におけるクリプトスポリジウム症の集団発生時には 8,800人余(町民の約70%)が発症した。
症状:主症状である下痢や水様便のほか、表2に示す症状が認められた。下痢の回数は一日10回以上の例も多かったが、細菌性食中毒に比較して39度以上の高熱、強い腹痛、テネスムス、あるいは脱水症状を呈した患者は少なく、入院率も1%以下であった。主に小児で軽度の発熱、咽頭痛、頭痛等の感冒様症状が認められたため当初は、「感冒性下痢症」と診断された例が多かった。下痢の持続日数は平均4.1日、受診者の約半数は突発的な水様便の訴えのみで他の症状を欠いた。血便を認めた例はなかった。
表2 初診時の症状
症状(n=277)人数(%)
下痢 274(99)
水様便 218(79)
腹痛 86(34)
発熱 81(31)
頭痛 36(13)
嘔吐 13(5)
診断: クリプトスポリジウム症に特異的な症状、所見は無く、診断は糞便中のオーシストの証明、および抗体検査によった。(現状では一般医療機関の依頼する検査センターで対応し得るか、確認の必要がある)
治療: クリプトスポリジウム症は免疫不全がなければ4〜7日の経過で自然治癒するとされており、補液を中心とした対症療法が主である。越生町の事例では原因が判明するまで「流行性下痢症」に対して多くの症例に止痢薬(ロペラミド、ビスマス、タンナルビン等)、整腸剤、抗生物質(ホスホマイシン等)、抗菌剤(ニューキノロン剤)が投与されたが、非投与例に比べ下痢の持続期間に差は認められなかった。脱水症状を呈し入院(通院)した例は高齢者に多かったが、補液(500〜1500ml)により比較的速やかに回復した。


11.免疫不全者における症状、診断、治療
 難治性、再発性、重症下痢症であり、下痢持続期間は長期化する。一カ月以上続くこの原虫性下痢症はAIDS発症の指標疾患であり、激しい下痢症(下痢排出量15L/日の症例報告もある)での診断が遅延すると致死的となる。診断は下痢便から原虫オーシストを証明することによる。治療にはいくつかの抗微生物薬が用いられるが、現在もっとも有効とされるのは硫酸パロモマイシン(経口)である。この薬剤の原虫学的効果は多くの場合一時的であり、原虫を完全に除去出来るわけでなく、臨床的再発も多い。激しい下痢に対してはロペラミドなどの止潟剤も用いられ、インドメタシン、フェノチアジン、クロルプロマジンなどの有効性も報告されている。

(注)硫酸パロモマイシン
この薬剤は抗生物質として承認され市販されている。クリプトスポリジウム症は未承認適用症であり、保険適用外である。

12.患者、感染者、家族への保健指導(二次感染防止)
 クリプトスポリジウムのオーシストは発症後数週間にわたり患者の糞便中に排出され、塩素や通常使われる消毒薬には強い抵抗性を示す。一方、加熱や乾燥に弱く72.4℃1分間 以上の処理で、糞便中のオーシストでも乾燥すれば1〜4日で感染力を失うとされている。 二次感染予防としては、以下のことに注意する。
患者等の用便後はトイレのとつ手、ドアのノブ、水道の蛇口のとつ手など患者等が触れ た可能性のある部分を逆性石鹸や消毒用アルコールを用いてふき取り、乾燥させること が有効である。
患者の汚物処理をした後や調理の前には手指をアルコール綿等でふき、石けんで良く洗 い、紙タオルで十分拭いてから一旦乾燥させる。
患者の汚物で汚れた衣類はたらい等に入れ熱湯をかけてから洗濯する。
患者の入浴を最後にまわす。


13.院内感染防止
 クリプトスポリジウム腸炎患者の下痢便は多くのオーシストを含み、感染力が強いため、失禁などで身辺の清潔を保てないような患者は隔離とし、その排泄物の取り扱いに気をつける。身辺の清潔を保てる患者を隔離する必要はないが、排便後の手洗いをよく指導する。入浴はなるべく他患者より後とし、使用後の浴槽は熱湯で消毒する。
 (注)隔離
 病棟管理における「腸管感染隔離」のことであり、法に基づく強制入院の意味ではない。個室又は同疾患同室の病室(専用トイレ)とし、汚染されやすい場合や感染性のものに触れる場合はガウンや手袋を用いる。マスクは不要。

14.感染予防の方針
組織的予防:行政単位ごとに監視体制を確立しておくことが重要である。その際、水道事業体、医療機関及び行政を一体化した情報ネットワークを整備し、薬局や学校施設やその他の福祉施設などが大量の下痢患者の発生といった事態に気づいたときに、対策組織が情報提供を受けられるようなシステム作りが求められよう。また、これらの組織を通じた日ごろからの住民への情報提供が重要となる。
個人予防:オーシストに汚染された可能性のある水道水は煮沸して飲用する。とくに発展途上国への旅行時には生の飲食物の摂取を避けること。さらに、汚染の疑いがある場合には河川やプールでの水泳などで水を飲まないこと。ただし、免疫不全生体やHIV感染生体にあっては日常生活で生の飲食物の摂取を極力避ける必要がある。
薬剤による予防:なし。細菌感染症と異なり、抗生物質で予防出来ないことがこの原虫症の特徴といえる。

15.予防処置
届出:現在の伝染病予防法では届出の義務はないが、国立感染症研究所の発行する「病原微生物検出情報」には項目としてあげられており、診断時には各地方の衛生研究所まで連絡されることが望ましい。また、平成11年4月より施行される「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、医師がクリプトスポリジウム症の患者を診断した際には保健所に届出を行うこととされている。
隔離:失禁状態にある症例は隔離が必要。(「13.院内感染防止」参照)
消毒:消毒方法として確実なのは加熱である。クリプトスポリジウムに汚染したと考えられるもの(汚れた衣類など)は熱湯消毒後乾燥させる。
接触者に対する対応の要否:接触者の下痢発症の有無をフォローアップ。

16.大規模な流行時の対策
 流行時には手洗いの励行や十分な飲食物の加熱調理といった一般的な経口感染症に対する予防措置が取られる。たとえば、大規模給食施設などでは生水(煮沸されていない水)の使用を制限し、生食に用いる果物や野菜をいったん洗った後に素手で扱わないなどの注意が必要である。また、家庭内に下痢患者がいる場合は二次感染防止に心がけるべきである。患者の汚物で汚れた衣類はたらい等に入れ熱湯をかけてから洗濯することが好ましい。患者の汚物処理をした後や調理の前には手指をアルコール綿等でふき、石けんで良く洗い、紙タオルで十分拭いてから一旦乾燥することが必要である。また患者の入浴を最後にまわすことも大切である。
 水道水が原因で集団感染が起きた場合、行政的な措置として水道の供給が停止され、原因の究明と汚染除去がなされる。その際は行政機関や水道事業者などによる広報を十分理解した上で対応していただきたい。なお、個人的な予防手段として浄水器の使用も考えられようが、家庭用の浄水器はすべての機種がクリプトスポリジウムの除去に有効とは限らない。少なくとも1μm以上の粒子を確実に除去する性能が保証されているものでなければ効果は期待できない。また、オーシストが除去できる機種では長期の継続使用によりオーシストが蓄積されるのでカートリッジを適宜交換する必要がある。
クリプトスポリジウムが問題とされている理由は、世界各地で水道水を介した大規模な集団感染が続発しているからである。このような事故を未然に防ぐ、あるいは被害を最小限にとどめるためには、各行政単位ごとに監視体制を確立しておくことが重要となる。その際、水道事業体、医療機関および行政を一体化した情報ネットワークを整備し、薬局や学校施設やその他の福祉施設などが大量の下痢患者の発生といった事態に気づいたときに、対策組織が情報提供を受けられるようなシステム作りが求められよう。また、これらの組織を通じた日ごろからの住民への情報提供も重要となる。

17.参考文献
1Alpert G et al.:Outbreak of cryptosporidiosis in a day−care center. Pediatrics 77:152−157,1986.
2DupontH.L.et al.:The infectivity of cryptosporidium parvum in healthy volunteers. N Engl J Med 332:855−859,1995.
3遠藤卓郎、八木田健司:クリプトスポリジウムの検査法.検査と技術 25:215−220,1997.
4Guerrant RL:Cryptosporidiosis:An emerging, highly infectious threat. Emerging Infect Dis 3: 51−57,1997.
5井関基弘:水系感染クリプトスポリジウム症の集団発生と環境水の汚染防止対策の必要性.日獣会誌、50:375−379,1997.
6Juranek DD: Cryptosporidiosis: Source of infection and guidelines for prevention. Clin Infect Dis21(Suppl 1):S57−61 1995.
7黒木俊郎他:神奈川県内で集団発生した水系感染Cryptosporidium症.感染症誌 70:132−140,1996.
8Mackenzie WR et al.: Amassive outbreak in Milwaukeeof Cryptosporidium infection transmitted through the public water supply. N Engl Med 331:161−167,1994.
9増田剛太他:日本人に発症した2例のクリプトスポリジウム症. 感染症学雑誌、65:1614−1619,1991.
10Millard PS et al.:An outbreak of cryptosporidiosis from fresh-pressed apple cider. JAMA 272:1592−1596,1994.
11厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課:水道に関するクリプトスポリジウムのオーシストの検出のための暫定的な試験方法,平成10年6月19日
12 厚生省生活衛生局水道環境部:水道水におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針,平成10年6月19日
13Nime FA et al.: Acute enterocolitis in a human being infected with the protozoan Criptosporidium, Gastroenterol 70:592−598,1976.
14O'Donoghue P.J.: Cryptosporidiosis in man and animals.Int J Parasitol 25:139−195,1995.
15大友弘士編:輸入寄生虫病薬物治療の手引き-1995-(改訂第4版)、厚生科学研究費補助金「熱帯病治療薬の開発研究班」1995.
16埼玉県衛生部:クリプトスポリジウムによる集団下痢症.−越生町集団下痢症発生事件−報告書 pp200,1997.
17塩田恒三:クリプトスポリジウム症. 動物の原虫病 6:17−37,1994.
18Solo−Gabriele H and Neumeister S:US outbreaks of cryptosporidiosis. JAWWA 88:76−86,1996.
19Widmer G. et al.: Water−borne Cryptosporidium: A Perspective from the USA. Parasitol Today 12:286−290,1996.
20増田剛太:クリプトスポリジウム症一臨床症状と疫学−.:化学療法の領域 14:243−247,1998


ジアルジア症(ランブル鞭毛虫症)


1.発生状況(国内、国外)
国内発生でのリスクファクターは、海外とくに発展途上国への旅行と男性同性愛である。症例はいずれも散発例であり、海外旅行での感染症例(旅行者下痢症)では赤痢菌、病原大腸菌や赤痢アメーバなどとの混合感染症例が多い。世界人口のうち数億人の糞便から本原虫を検出するとされるほど、地球規模で見るとジアルジアはごくありふれた微生物である。この原虫による腸炎の症状は一般に軽症例が多く、発展途上国における実体の詳細は不明である。国外では散発症例のほかに飲料水や飲食物を介した集団発生が報告される。

2.感染源と伝播様式
 患者およびキャリアの糞便に汚染された飲料水、飲食物を介して経口的に感染する。ヒト由来のジアルジアが他の哺乳動物に感染するか、逆に動物由来のものがヒトに感染し得るか否かについては議論のあるところであるが、状況証拠から人獣共通感染症として扱われている。米国では水源地に生息する感染ビーバーから排出されたシストが原因と考えられる水道水を介した集団発生が報告されている。また、男性同性愛者間にも糞口感染によると考えられる流行が見られる。

3.潜伏期、伝染可能な期間など
潜伏期:3〜20日(平均7日)。
伝染可能な期間:報告によって異なるが、シストは水中で3ヵ月以上生存したという実験記録がある。一般に水温が上がるにつれて生存期間が短くなる。また、シストを失活させるには55℃で5分間の処理が必要とされている。なお、ジアルジアは感染力が強く、ヒトでの感染実験では10個のシストの摂取で感染が成立した。

4.ヒトの感受性
感受性は普遍的であるが、成人よりも小児のほうが感受性が高い。ただし、血清免疫グロブリン低下症や分泌型1gA低下症の症例では難治化、重症化する。

5.病原体
病原体はGiardia lambliaである。なお、ジアルジアの分類には不確定な要素があり、G. duodenalisあるいはG. intestinalisという種名を用いることもある。

6.宿主
ヒト由来のジアルジアが他の哺乳動物に感染するか、逆に動物由来のものがヒトに感染し得るか否かの議論は未だに決着していない。

7.患者検体の検査
 ジアルジアの診断は検便によって行われる。患者の便の中には卵円形のシストが検出されるが、下痢便中には鞭毛を持って遊泳する栄養体も検出される。検査方法は通常の検便か、遠心沈殿法で得られた沈渣をヨード・ヨードカリ染色して観察することで比較的容易に検出できる。なお、栄養体を検出する場合は下痢便を生理食塩水で希釈して観察するか、場合によっては胆汁を採取して検査する。

8.環境検体の検査
 基本的にはクリプトスポリジウムの検査法と同様で、試料水の濃縮、シストの精製、蛍光抗体法による染色の後、顕微鏡観察を行う。野菜などの検査では試料の洗浄液を濃縮して用いる。

9.一般の症状、診断、治療
 ジアルジア症の主な臨床症状としては下痢、衰弱感、体重減少、腹痛、悪心や脂肪便などが挙げられる。有症症例では下痢が必発であり、下痢は非血性で水様ないし泥状便である。排便回数は一日数回程度から20回以上と様々であり、腹痛は伴う例と伴わない例が相半ばし、多くの症例で発熱は見られない。なお、分泌型1gA低下症や低ガンマグロブリン血症をもつ生体に発症したジアルジア症ではその臨床症状が激しく、難治性であり、か つ再発性である。
 診断は患者の糞便(下痢便)から顕微鏡下に本原虫を証明することによる。さらに、原因不明の下痢症、脂肪便やその他の腹部症状の精査の一環として十二指腸液や胆汁を採取し、原虫の検査が行われることもある。ジアルジアの栄養型の大きさは体長15〜17μm、幅5〜7μmで左右対称の洋梨型を示す。猿の面容に似た形態を有するためモンキーフェイスとも形容される(33ページ、カラー写真B−1)。背面は突出し、腹面には吸着円盤と呼ばれる固着器官が発達しており、小腸などの粘膜表面に吸着する。シスト(嚢子)は8〜12μm×5〜8μmの楕円形をしており、成熟したシストでは4個の核を持つ(同、B−2)。糞便中に見られる原虫の形態は、水様便にあっては栄養型が、泥状便や有形便ではシストを検出することが多い。ジアルジアの治療にはメトロニダゾールやチニダゾールなどが用いられる。
 (注)メトロニダゾール、チニダゾール
 これらの薬剤はトリコモナス症治療薬として承認され市販されている。ジアルジア症は未承認適用症であり、保険適用外である。詳細は「輸入寄生虫病薬物治療の手引き一1995一(改訂第4版)、厚生科学研究費補助金「熱帯病治療薬の開発研究班」1995.」参照。

10.免疫不全者における症状、診断、治療
 HIV感染者等で免疫不全が高度である場合に、ジアルジア症が必ず重症化するわけではない。しかし{原虫感染が見逃されて長期間治療が行われない症例では下痢が高度で遷延化する可能性がある。血清免疫グロブリン低下症や分泌型1gA低下症にあっては本症は重症、難治性である。

11.患者、感染者、家族への保健指導(二次感染防止)
 ジアルジアのシストは発症後数週間にわたり患者の糞便中に排出され、塩素や通常使われる消毒薬には強い抵抗性を示す。一方、加熱や乾燥に弱く、55℃で5分以上(沸騰水では直ちに)、乾燥させれば温度に関係なく1日以内には死滅するとされている。
 二次感染予防としては、以下のことに注意する。
・患者等の用便後はトイレのとつ手、ドアのノブ、水道の蛇口のとつ手など患者等が触れた可能性のある部分を逆性石鹸や消毒用アルコールを用いてふき取り、乾燥させることが有効である。
・患者の汚物処理をした後や調理の前には手指をアルコール綿等でふき、石けんで良く洗い、紙タオルで十分拭いてから一旦乾燥させる。
・患者の汚物で汚れた衣類はたらい等に入れ熱湯をかけてから洗濯する。
・患者の入浴を最後にまわす。
12.院内感染防止
 ジアルジアのシストは感染力が強いため、シスト排泄者に対しては排便後の手洗いをよく指導する。シスト排出者にあっては、一般に、下痢症状はあっても軽微であり、身辺の清潔が保てるため隔離の必要はない。シスト排出者が使用した浴槽は熱湯で消毒した後乾燥させる。

13.感染予防の方針
 組織的予防:クリプトスポリジウム症の項を参照のこと。
 個人予防:クリプトスポリジウム症の項を参照のこと。
 薬剤による予防:通常、予防的内服を行うことはない。

14.予防処置
 届出:現在の伝染病予防法では届出の義務はないが、国立感染症研究所の発行する「病原微生物検出情報」には項目としてあげられており、診断時には各地方衛生研究所まで連絡されることが望ましい。また、平成11年4月より施行される「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、医師がジアルジア症の患者を診断した際には保健所に届出を行うこととされている。
 隔離:不要
 消毒:濃厚に汚染した場合にのみ消毒が必要。乾燥で死滅する。
 接触者:通常の接触であれば特別な対処を必要としない。

15.大規模な流行時の対策
 基本的にクリプトスポリジウムの場合と同様の対策が求められる。ちなみに、現在までわが国では本症の集団発生の報告はない。

16.参考文献
1Farthing MJG: Giardia lamblia,In : Blaser M.J. et al. eds. Infection of the Gastrointestial Tract pl081 1105, 1995.
2Farthing MJG et al. : Serodiagnosis of giardias. Serodiag Immunother 1: 233 238, 1987.
3Heyworth MF : Intestinal IgA responses to Giardia muris in mice depleted of helper T lymphocytes and in immunocompetent mice. J Parasitol 75:246 251, 1989.
4Jokipii L and Jokipii AM : Giardiasis in travelers : A prospective study. J Infect Dis 30:295 299, 1974.
5Laughon BE et al. : Prevalence of enteric pathogens in homosexual men with and without acquired immunodeficiency syndrome. Gastroenterol 94:984 993. 1988.
6Levine WC et al.:Water-borne disease outbreaks, 1986 1988. MMWR 39: 1 13, 1990.
7Meloni PB et al. : Isoenzyme electrophoresis of 30 isolates of Giardia from human and felines. Am J Trop Med Hyg 38:65 73, 1988.
8Meyer EA and Radulescu S : Giardia and giardiasis. Adv Parasitol 17:1 47, 1979.
9Nash TE et al. : Restriction-endonuclease analysis of DNA from 15 Giardia isolates from humans and animals. J Infect Dis 152:64 73, 1985.
10Owen RL : Direct facal-oral transmission of giardiasis. In : Erlandsen SL and Meyer EA eds. Giardia and Giardiasis. New York : Plenum Press 329 339, 1984.
11Phillips SC et al. : Sexual transmission of enteric protozoa and helminths in a venereal disease clinic population. N Engl J Med 305:603 606, 1981.
12Sullivan P et al. : Longitudinal study of diarrheal disease in day care centers. Am J Pub Health 74:987 991, 1984.
13Thompson RCA et al. : Genetic variation in Giardia Kunstler, 1882 : Taxonomic and epidemiological significance. Protozool Abst 14: 1 28, 1990.
14Thompson RCA and Reynoldson JA: Giardia and Giardiasis. Adv Parasitol 32:71 160, 1993.
15Wolfe MS : Giardiasis. Clin Microbiol Rev 5 : 93 100, 1992.
16増田剛太:ランブル鞭毛虫症.化学療法の領域.13(増刊号):204−208,1997

サイクロスポーラ症



1.発生状況(国内、国外)
国内:散発例としては1996年に東南アジアから帰国した下痢患者の糞便から本原虫が検出された症例が第一例であり、その後、アジア諸国への海外旅行者から数例の本症が証明されている。
国外:1996年以降米国とカナダで、とくに中南米から輸入した木イチゴやバジルなどを媒介食品とする集団発生が相次いで報告された。

2.感染源と伝播様式
 感染は汚染された飲食物の経口摂取による。食品としては木イチゴ、バジルなど。サイクロスポーラのオーシストは未成熟の状態で糞便中に排出されるため、オーシストが感染性を持つまでに生体外で一定の発育期間が必要である。そのためヒトからヒトヘの直接伝播は起こらない。

3.潜伏期、感染可能な期間など
潜伏期:平均1週間(22〜12日)。
感染可能な期間:詳しい報告がないため、不明な点が多い。通常の塩素消毒がされている水道施設を介して集団感染が起きていることから、塩素耐性があるものと判断されている。他の原虫の例からすれば、高温処理がもっとも有効な消毒方法といえる。
流行状況:広範な疫学情報はないが、主な流行地は熱・亜熱帯地方と考えられている。本症流行の特徴は地域ごとに強い季節変動が認められる点で、ペルーでは12〜7月の間、ネパールでは5〜8月に多くの患者が発生している。また、輸入食品を介した米国での集団感染も春先から夏にかけて集中している。

4.ヒトの感受性
普遍的である。

5.病原体
Cyclospora cayetanensisである。(34ページ、カラー写真C−1)

6.宿主
ヒト。本原虫の生活史の詳細は不明であるがEimeria属原虫のそれに似るという報告 がある。

7.患者検体の検査
サイクロスポーラの診断は検便によって行われる。患者の便の中には直径10μm程度の球形のオーシストが検出される。検査方法はクリプトスポリジウムの検査法と同様だが、市販の蛍光抗体染色キットはない。そのかわり、オーシスト壁は蛍光顕微鏡下(UV励起)でネオンブルーの自家蛍光(同、C−2)を発するので蛍光顕微鏡下での検出は比較的容易である。

8.環境検体の検査
水の検査では資料水の濃縮とオーシストの分離・精製を行い、蛍光顕微鏡下でオーシストの自家蛍光を確認する。また、野菜などの検査では試料の洗浄液を濃縮して用いる。

9.一般の症状、診断、治療
臨床症状は下痢(非血性、水様)、食欲不振、倦怠感、体重減少、鼓腸、腹痛などが主であり、発熱を伴う例もある。下痢症としてはクリプトスポリジウム症やイソスポーラ症とよく似ているが、サイクロスポーラ症は免疫機能正常生体にあってより長期間にわたり症状が断続的に出没する点が異なる。この原虫の検出は患者糞便から顕微鏡下に特徴ある形態のオーシストを証明することによるが、オーシスト壁がネオンブルーの自家蛍光を発するため、蛍光顕微鏡を用いた確認も行われる。
サイクロスポーラに対してはST合剤(成人量:TMP160mg/SMX800mg/回)一日2〜4回、7〜10日間を投与する。

(注)ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤)
サイクロスポーラ症は未承認適用症であり、保険適用外である。

10.免疫不全者における症状、診断、治療
免疫不全者(AIDSなど)に長期間持続する重症下痢症が発症し、細菌をはじめとする既知の腸管系病原微生物が検出されない症例にあっては本原虫である可能性をも考えて診療を進める。
HIV感染者での本原虫性下痢症は、免疫機能正常者のそれに比べてより長期化、重症、難治性、再発性である。治療にはST合剤が用いられ有効であるが、再発・再燃による発症予防にST合剤(TMP160/SMX800mg/日)3日間/週、隔日投与、が有効とされる。
11.患者、感染者、家族への保健指導(二次感染防止)
サイクロスポーラのオーシストは未成熟の状態で糞便中に排出され、塩素や通常使われる消毒薬には強い抵抗性を示すが、オーシストが感染性を持つまでに生体外で一定の発育期間が必要であるため、ヒトからヒトヘの直接伝播は起こらない。
 他の原虫を参考にすればオーシストは加熱に弱いものと思われ、煮沸により直ちに死滅するものと考えてよい。一方、乾燥に対してはどの程度の抵抗性があるのか不明である。 従って、二次感染防止のための保健指導としては、清潔に気を配ることである。

12.院内感染防止
 ヒトからヒトヘの感染が証明されないため患者を隔離する必要はない。排泄物の取り扱いに気をつける。糞便によって汚染した器物などは熱湯による煮沸消毒を行なう。

13.感染予防の方針
本症ではヒトからヒトヘの感染が起きないため、食中毒予防の一環としての対策が求められる。

14.予防処置
届出:現在の伝染病予防法では届出の義務はないが、国立感染症研究所の発行する「病原微生物検出情報」には項目としてあげられており、診断時には各地方衛生研究所まで連絡されることが望ましい。
隔離:不要。
消毒:患者排泄物に汚染された器材などは出来れば加熱消毒(70℃、1分以上)する。 データが十分でないため詳細は不明。
接触者:ヒトからヒトヘの感染が証明されていないため不要。

15.大規模な流行時の対策
サイクロスポーラのオーシストは外界で1〜2週間の発育期間を経て感染性となるため、患者との接触感染はない。従って、基本的には集団食中毒としての対策が求められる。米国での集団感染事例は主にラズベリーなど輸入食品の生食を介して起きている。ちなみに、わが国では本症の集団発生の報告はない。

16.参考文献
1Ashford RW : Occurrence of an undescribed coccidian in man in Papua New Guinea. Ann Trop Med Parasitol 73:497 500, 1979.
2Herwaldt BL et al. : An outbreak in 1996 of cyclosporiasis associated with imported raspberries. N Engl J Med 29:1548 1556, 1997.
3Hoge CW et al. : Epidemiology of diarrhoeal illness associated with coccidian-1ike organism among travelers and foreign residents in Nepal. Lancet 341:1175 1179, 1993.
4Huang P et al. : The first reported outbreak of diarrheal illness associated with Cyclospora cayetanensis in the United States. Ann Int Med 123: 409 414, 1995.
5井関基弘他:シクロスポーラ症の本法第1例と腸管寄生原虫の3種混合感染の1例, 臨床寄生虫 7:43−45,1996.
6Long EG et al. : Morphologic and staining characteristics of a Cyanobacterium-1ike organism associated with diarrhea. J Infect Dis 164:199 202, 1991.
7Ortega YR et al.: Cyclospora species A new protozoan pathogen of humans. N EnglJ Med 328:1308 1312, 1993.
8Ortega YR et al. : Cyclospora cayetanensis. Adv Parasitol 40:399 418, 1998.
9Rabold JG et al. : Cyclospora outbreak associated with chlorinated drinking water. Lancet 344:1360, 1994.
10Soave R: Cyclospora : An overview. Clin Infect Dis 12:429 437, 1996.
11Zerpa R et al. : Cyclospora cayetanensis associated with watery diarrhoea in Peruvian patients. J Trop Med Hyg 98:325 329, 1995.


附1 さらに詳しい情報の入手方法


クリプトスポリジウム、ジアルジア、サイクロスポーラ等の原虫類に関する情報につい ては以下の機関で問い合わせに応じている。

<関係機関>
国立感染症研究所(前国立予防衛生研究所)寄生動物部
〒162−8640東京都新宿区戸山1−23−1
Tel 03−5285−1111
Fax 03−5285−1173
東京都立駒込病院感染症科
〒113−8677東京都文京区本駒込3−18−22
Tel 03−3823−2101
Fax 03−3824−1552
北海道立衛生研究所生物工学室
〒060−0819北海道札幌市北区北19条西12丁目
Tel 011−747−2211
Fax 011−736−9476
東北大学農学部動物微生物科学講座
〒981−8555宮城県仙台市青葉区堤通雨宮町1−1
Tel 022−717−8710
Fax 022−717−8710
東京都立衛生研究所細菌第2研究科
〒169−0073東京都新宿区百人町3−24−1
Tel 03−3363−3231
Fax 03−3368−4060
神奈川県立衛生研究所細菌病理部
〒241−0815神奈川県横浜市旭区中尾1−1−1
Tel 045−363−1030
Fax 045−363−1037
大阪市立大学医学部医動物学教室
〒545−8585大阪府大阪市阿倍野区旭町1−4−54
Tel 06−6645−3761
Fax 06−6645−3762
兵庫県立衛生研究所微生物部
〒652−0032兵庫県神F市兵庫区荒田町2−1−29
Tel 078−511−6581
Fax 078−531−7080
山口県衛生公害研究センター生物学部細菌科
〒753−0821山口市葵2丁目5番67号
Tel 0839−22−7630
Fax 0839−22−7632
愛媛県衛生環境研究所疫学情報科
〒790-003松山市二番町8丁目234番地
Tel 089−931−8757
Fax 089−947−1262
大分県衛生環境研究センター微生物部
〒870−0948大分県大分市芳河原台2番51号
Tel 097−569−0802
Fax 097−569−5150
また、インターネットを利用すると国内外の最新の情報を得ることができる。

<主な情報源のホームページアドレス>
国内
 厚生省http://www.mhw.go.jp/
 国立感染症研究所感染症情報センター
 各論:話題の感染症(検査のための寄生虫図)
http://idsc.nih.go.jp/index−j.html
http://www.nih.gojp/~tendo/atlas/japanese/
 東京都立衛生研究所
  クリプトスポリジウム集団下痢症
http://tokyo-eiken.go.jp/index-j.html
http://tokyo-eiken.go.jp/topics/crypto.html
 横浜市衛生局衛生研究所http://www.eiken.city.yokohama.jp/
国外
 NCID Diseases, Selected Prevention and
  Program Areas Listing
(Centers for Disease Control and Prevention)
http://www.cdc.gov/ncidod/diseases/index.html
 Cryptosporidium Research
  at Kansas State University
http://www.ksu.edu/parasitology/
 Cryptosporidium Capsule http://www.fspubl.com/


附2 広報資料の例示