肺結核初回標準治療法に関する見解


平成7年9月25日
日本結核病学会治療委員会
委員長 近 藤 有 好
委 員 岸 不蓋彌、  渡 辺 彰、 和 田 雅 子
荻 原 正 雄、 亀 田 和 彦、 谷 淳 吉
中 富 昌 夫、 佐 藤 紘 二、 来 生 哲
柏 木 秀 雄、 高 嶋 哲 也、 鎌 田 達
吉 賀 宏 延、



 はじめに

 わが国の結核医療の原則は、結核予防法の定める結核医療の基準と社会保険による結核の治療指針に準拠するものであり、新薬の登場とともに改定が行われ、わが国の結核医療に貢献することが大であった。また、日本結核病学会は1988年に標準的な化学療法として、初回治療では排菌ならびに空洞所見からINH,RFP,SMまたはEBの三者併用療法、あるいはINH,RFPの二者併用療法を提言し、適切な治療薬の選択と治療期間の短期化に貢献した。この治療法は今日でも標準療法として定着し十分な役割を果たしていると考えるが、近年の結核滅少率の鈍化をはじめとする諸問題を思うとき、結核対策に今まで以上に力を注ぎ結核の撲滅を図らなければならない。結核滅少率鈍化の原因はいろいろあるが、日本結核病学会治療委員会としては治療効果の一層の促進が必要であると考える。具体的にはより有効な治療法の開発、導入によって治療開始後の菌陰性化をより早期に達成し、感染源としての危険をいち早く排除するとともに耐性の獲得を防止し、治療期間の短縮を図ることであり、治療後の再発を可及的に阻止することである。今日の治療にもかかわらず排菌の持続する難治例も7-8%存在するが、これらの多くは多剤耐性菌結核であり、服薬コンプライアンスの不良例、あるいはHIV感染、腎透析、糖尿病、膠原病など免疫能の低下をきたすcompromised hostにみられる。これらの患者に対する治療が今後に残された問題の一つである。初期にPZAを加えた「初期強化」短期療法は、これらの問題の解決に曙光を与える治療法として期待されている。諸外国では、1986年にはATS,CDCが、また1988年IUATLD,1991年WHOが初期2ヵ月間PZAを加えたINH,RFP,SM(EB)4剤併用とその後INH,RFP2剤併用4ヵ月間、計6ヵ月間の「初期強化」短期療法を肺結核初回治療の標準療法として勧告した。

Pyrazinamide(PZA)を加えた「初期強化」短期療法の動向


 PZAは1940年に合成され、抗結核薬として使用されたのが1952年である。試験管内中性培地では抗菌力は弱いにもかかわらず酸性培地では強い抗菌力を示し、急性炎症組織内あるいは食細胞に取り込まれた結核菌に有効であると報告されている。SM,PAS,INHが主流をなした時代には、これらの薬剤による治療不成功例や再発例に主として使われたが、副作用特に肝障害の出現が多いため使用されなくなった。しかし、PZAの使用量が1日2.0g以下、使用期間が2ヵ月以内、併用薬がINH,RFPであれば肝障害も少なく、肺結核の初期の治療に特に有効であることが諸外国の報告およびわが国の報告から明らかとなった。すなわち、諸外国の報告ではINH,RFP,SM(EB)にPZAを加えた6ヵ月治療では、2ヵ月目の菌培養陰性化率はPZAを加えない場合の60-75%に比較し、75-98%と高率であり、再排菌率も1.6-2.0%とPZAを加えない9ヵ月治療のそれとほぼ同率であると報告されている。わが国の研究でも、国療化研、国療中野病院、羽曳野病院、国療大牟田病院、複十字病院いずれの成績も、PZAを加えた治療による2ヵ月目の菌陰性化率は83-100%で、加えない場合の67-90%より優れていた。また、再排菌率は平均1.7%で低率であった。一方、懸念されていた肝障害も、初期の2ヵ月間PZAを加えたINH,RFP,SM(またはEB)4剤併用療法ではGOT, GPT値の上昇率は2.4-30.1%で、PZAを含まないINH,RFP治療と同程度であり、多くは2ヵ月間の服薬完了は可能であるとの報告が多い。その他のPZAの副作用としては皮疹、関節痛があり、血清尿酸値も高率(50-100%)に上昇するが、尿酸値の上昇は関節痛の出現とは関係なく痛風の発症も極めて少なく、使用中止に至る場合は稀である。
 以上の事実から、PZAは治療初期の2カ月間INH,RFPと併用することにより、現行の標準治療法に比較してもより早期に菌陰性化が達成でき、ひいては治療期間の短縮、医療費の削減に貢献できるなど結核対策に多くの利点をもたらす優れた抗結核薬として評価したい。
 依って、日本結核病学会治療委員会は結核治療をより短期間で終了させ、結核撲滅を早期に図るべく肺結核初回標準療法の一っとしてPZAを加えた「初期強化」短期療法を導人し、肺結核初回標準治療法に関して以下の提言を行うものである。

肺結核初回標準治療法への提言

 日本結核病学会治療委員会は、下記の3治療法を活動性肺結核初回標準治療法として推奨し、その適応基準を以下の如く提言する。
1.標準治療法
1)2HRZS(またはE)/4HR(Eを加えてもよい)
初期2ヵ月間はPZAを加えたINH,RFP,SM(またはEB)4剤併用、 その後INH,RFP、(EBを加えても良い)の2一(3)剤併用4ヵ月間 の合計6ヵ月間。
2)6HRS(またはE)/3-6HR
INH,RFP,SM(またはEB)3剤併用6ヵ月間、
その後INH,RFP2剤併用3-6ヵ月間の合計9-12ヵ月間。
3)6-9HR
INH,RFPの2剤併用を6-9ヵ月間。
2.適応基準
1)喀疾塗抹陽性症例は、標準治療法1)または2)を施行する。
2)喀淡塗抹陰性、または喀淡塗抹陰性・培養陽性、気管支内視鏡下塗抹陽性、
その他の症例は病状により、標準治療法1)、2)、3)の中から適切なものを選択する。


文 献
1)亀田和彦: 今日におけるピラジナマイドの地位. 結核. 1995 ; 70:445-455.
2)土屋俊晶、近藤有好、坂谷光則:持続排菌患者の実態調査成績(抄録).結核. 1995;70:211.
3) East African/British Medical Research Council : Controlled clinical trial of four short-course (6-month) regimens of chemo-therapy for treatment of pulmonary tuber-culosis. Lancet. 1974 ; 2 : 1100-1106.
4) Fox W, Mitehison DA : Short-course che-motherapy for pulmonary tuberculosis. Am Rev Respir Dis. 1975 ; 11.1 : 325-353.
5) British Thoracic Association : A controlled trial of six months chemotherapy in pul-monary tuberculosis. Br J Dis Chest. 1981 ; 75 : 141-153.
6) Snider DE Jr, Rogowski J, Zierski M, et al. Successful intermittent treatment of smear-positive pulmonary tuberculosis in six months : a cooperative study in poland. Am Rev Respir Dis. 1982 ; 125 : 265-267.
7) American Thoracic Society : Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. Am Rev Respir Dis. 1986 ; 134 : 355-363.
8) Committee on Treatment of the International Union Against Tuberculosis and Lung Disease : Antituberculosis regimens of che-motherapy. Bull IUATLD. 1988 ; 63 : 60-64.
9) Steele MA and DesPrez RM : The role of pyrazinamide in tuberculosis chemotherapy. Chest. 1988 ; 94 : 845-850.
10) WHO : Guidelines for tuberculosis treatment in adult and children in national tuber-culosis. WHO/TUB/91, 161, 1991.
11)結核療法研究協議会:初回治療におけるINH,RFP,EB併用と INH,RFP,PZA併用の比較に関する研究. 結核. 1980;55:7-13.
12)国立療養所化学療法共同研究会:短期化学療法におけるPZAとEB の比較一国療化研第22次研究一. 結核. 1984;59:575-580.
13)鈴木孝:PZAを加えた初期強化短期治療. 結核. 1985;60:600-603,
14)馬場治賢、新海明彦、井槌六郎、他:肺結核短期療法の遠隔成績(第二 次研究一A)無作為割当ての4方式による6ヵ月療法の終了後6年まで の遠隔成績. 結核. 1987;62:329-339.
15)加治木章:ピラジナミドの再評価.結核.1994;69:107-112.
16)和田雅子、吉山 崇、吉川正洋、他:初同治療肺結核症に対する Pyrazinamideを含んだ6ヵ月短期化学療法. 結核. 1994;69:671-680




今後ますます重要になる
定期外健康診断



感染危険度指数
=最大ガフキー号数
× 咳の持続期間(月数)



初発患者の定期外健康診断での重要度の判定
感染源のカテゴリー 感染危険度指数
最重要
重要
その他
以上

および肺外結核



 結核は伝染病なので患者の家族など接触者の一部は感染を受け、あるいは発病し ている可能性も否定できない。このため患者が届け出られると家族検診などを行 うが、これを「定期外健康診断」と呼んでいる。
 定期外健康診断は、1.周りの感染者、発病者を早期に発見し、2.届け出られた患 者が若年者の場合には、この感染源を発見するために行う。1を目的とした定期 外健康診断は、患者の感染源としての危険の度合いに応じて行うが、「感染危険 度指数」や「感染源のカテゴリー(重要度)」は上の右の表のようにして分類さ れる。実際の定期外健康診断は、感染源のカテゴリー(重要度)、接触者の年齢 および登録からの期間に応じ、次頁の表のように行うことが勧められている。

1)厚生省保健医療局結核・感染症対策室監修;結核定期外健康診断ガイドラインとその解説、結核予防会、1993.


接触者検診での登録時およびその後のツ反応検査とX線検査実施の対象と時間

時期 接触者の年齢 0〜14歳
(中学生以下)
15〜28歳 30歳〜
感染源のカテゴリー
登録直後から2ヶ月以内 最重要 @直後に反応
A @で化学予防また治療となった者以外は、2ヶ月後に再度ツ反応を行う
@Aとも、ツ反応陽性者にはX線検査
直後にX線検査

ツ反応は,必要に応じて2ヶ月後に行う(15〜18歳の者はできるだけツ反応を行うことが望ましい)
直後にX線検査

ツ反応は,特別の場合を除いて不要
重 要 同上
(BCG接種歴がある場合は,直後を省略して2ヶ月後に1回のみでもよい)
2ヶ月後にX線検査

ツ反応は,原則として不要
2ヶ月後にX線検査

ツ反応は検査は不要
その他 2ヶ月以内にツ反応必要に応じてX線検査を行う 2ヶ月以内にX線検査 2ヶ月以内にX線検査
登録後8〜14ヶ月 最重要 X線検査* X線検査* X線検査*(必ず)
重 要 X線検査* X線検査* X線検査*(必ず)
その他 不 要 不 要 不 要
登録後15〜24ヶ月 最重要 X線検査* X線検査* X線検査*(必ず)
重 要 できればX線 できればX線 できればX線
その他 不 要 不 要 不 要
* 登録直後〜2ヶ月以内のツ反応で感染が否定された者以外は,全員必ず行う。
(注)初発患者が治療,転出,死亡などによって削除されている場合でも,登録後8〜14ヶ月および15〜24ヶ月の検診は初発患者のカテゴリーに応じて必ず行う。