厚 生 省

今冬のインフルエンザ総合対策について

1.はじめに

 インフルエンザは、人類が数千年前から経験してきた感染症であり、人類にとって最も身近な感染症の一つである。また、風邪症候群を構成する感染症の一つであり、症状の程度によっては普通の風邪と見分けにくいことから、特に我が国においては、一般の風邪と混同されることが多い。しかしながら、罹患した場合の症状の重篤性や肺炎等の合併症の問題を考えた場合に一般の風邪とは全く異なる転帰を迎えることがあるといった特性があるほか、A型インフルエンザについては、汎流行が数十年に一度発生し、我が国を含めた世界各国で甚大な健康被害と社会活動への影響を引き起こすことが知られている。このため、インフルエンザは、個人予防の観点のみならず、社会全体の予防の観点からも、行政関係者や医療関係者はもちろんのこと、国民一人一人においてもその予防に取り組んでいかなければならない極めて重要な感染症であるといえる。
 国及び都道府県等(都道府県、保健所を設置する市及び特別区をいう。以下同じ。)は、今後公表されるインフルエンザに関する特定感染症予防指針、インフルエンザ対策要綱とともに、本総合対策に基づいて今冬(平成11年から平成12年)のインフルエンザ対策に取り組んでいくこととする。

2.具体的対策

(1)予防に向けての普及啓発活動の推進

 インフルエンザの発生の予防及びまん延の防止においては、国民個人個人が自ら予防に取り組むことが基本であり、このような個人の予防の積み重ねにより、社会全体のまん延の防止に結び付けることが重要である。そこで、国及び都道府県等は、医師会等の関係団体とともに、国民個人個人が自ら予防に取り組むことを積極的に支援していくことが必要である。このため、予防接種及びその他の一般的な予防方法について、科学的根拠に基づくとともに、インフルエンザ以外の一般的な風邪の予防にも併せて留意して、国民に周知徹底していくこととする。具体的には、以下の普及啓発活動を進めることとする。

○インフルエンザ予防リーフレット、ポスターの作成・配布

 厚生省は、日本医師会とともにインフルエンザ予防のためのリーフレット、ポスターを作成し、都道府県等、医療機関、学校、職域等を始めとした普及を図り、国民にインフルエンザ予防を呼びかける。

(注) 別添資料1:インフルエンザ予防リーフレット
別添資料2:インフルエンザ予防ポスター

○インフルエンザ ”Q and A”の作成・配布

 厚生省と日本医師会感染症危機管理対策室、国立感染症研究所感染症情報センターは、毎年インフルエンザの流行シーズンに寄せられる質問項目の中で、頻度の高いものを整理した上で、対応する回答を作成して公表する。

(注)別添資料3:インフルエンザ ”Q and A”

○インターネットホームページを活用した普及啓発

 厚生省と国立感染症研究所感染症情報センターは、インフルエンザリーフレット、インフルエンザ ”Q and A”、インフルエンザ患者発生状況等について、インターネットホームページを活用して普及啓発を図る。

・厚生省ホームページ:http://www.mhw.go.jp
・国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:http://idsc.nih.go.jp

○シンポジウム、講演会等の開催

 インフルエンザに関する国民及び関係者の関心を喚起し、かつ、インフルエンザに関する正しい知識の普及を行うためには、シンポジウムや講演会等の開催が有効である。このため、厚生省は、本年11月29日に、1997年に新型インフルエンザAH5が香港で登場した際、実際の陣頭指揮を取った香港特別行政区保健署(公衆衛生担当官庁)長を我が国に招聘し、インフルエンザに関する関心の喚起を目的とした講演会を開催する予定である。また、厚生省は、国立感染症研究所と協力しながら、各地で開催されるシンポジウムや講演会等に対して必要な情報の提供や助言などの支援を行う。

(2)まん延状況の早期把握と国民への提供・公開

 冬季に爆発的に患者が発生し、患者発生数が頂点を迎えた後は急速に終息に向かうといったインフルエンザの流行の特性を考えた場合、適切な予防方法の実施及び良質かつ適切な医療の提供を支援していくためのインフルエンザの発生動向調査は極めて重要である。また、国及び都道府県等がインフルエンザに関する情報を収集及び分析し、国民や医師等の医療関係者に対して情報を提供・公開していくことが、インフルエンザ対策を進めていく上で、最も基本的な事項である。
 したがって、国及び都道府県等は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症新法」という。)に基づくインフルエンザの発生動向調査の収集及び分析を強化する。特に、感染症の情報収集に対する迅速性と正確性という本来相反する二つの側面の均衡に配慮しつつ、感染力が極めて強く、かつ、極めて短期間の間に流行が拡大するという前記のインフルエンザの特性に応じた効果的かつ効率的な情報収集体制を整備する。具体的には、以下の対策を進めることとする。

○感染症新法に基づくインフルエンザ患者発生状況の把握

 国は、感染症新法に基づいて、各都道府県が選定した全国約5000箇所のインフルエンザ定点(約3000箇所の小児科定点を含む)で診断されるインフルエンザ患者について、オンラインで情報収集を行うとともに、集められた情報を分析し、その結果を感染症発生動向調査週報(IDWR:Infectious Diseases Weekly Report)等を用いて提供・公開を図る。

○学校等におけるインフルエンザ様疾患発生状況の把握

 国は、全国の幼稚園、小学校、中学校等においてインフルエンザ様疾患による学年・学校閉鎖が実施された場合に、その施設数とその時点においてインフルエンザ様疾患で休んでいる学童等の数を、各学校及び各都道府県教育担当部局の協力に基づき収集・分析し、その結果を毎週公表する。

○インフルエンザ流行の迅速把握

 インフルエンザ対策を的確に行うため、インフルエンザの臨床症状がその程度によっては、普通の風邪と見分けにくい場合があることからも、その鑑別診断を念頭に置き、かつ、インフルエンザの流行の特徴に鑑み迅速性に重点を置いた把握を行う必要があり、推進体制の整備を図る。

○インフルエンザ関連死亡の把握

 インフルエンザの流行が与える影響及びインフルエンザウイルスの病原性について監視を行うため、今冬から、全国の保健所の協力も得て、インフルエンザ関連死亡の把握を行うための調査を開始する必要があり、推進体制の整備を図る。

(3)相談窓口の設置

 国は、インフルエンザ予防接種の意義、有効性、副反応等やインフルエンザの一般的予防方法、流行状況等に関する国民の疑問に的確に答えていくとともに、医療関係者からの専門的な質問にも応じられるよう、国立感染症研究所感染症情報センター内にインフルエンザ相談ホットラインを開設する。具体的な対応は以下のとおりとする。

・開設時期: 平成11年12月1日〜平成12年3月31日
・対応日時: 月曜日〜金曜日(祝日除く)9:00〜17:00
・電話番号: 03-5285-1231
・FAX番号: 03-5285-1233
・E-mail: influenza@nih.go.jp

(4)ワクチンの確保と予防接種の推奨

 インフルエンザの予防においては、予防接種が最も基本となる予防方法であり、個人の発病や重症化の防止の観点から、予防接種を推進していくべきである。今冬は、昨冬の2倍以上のワクチン供給量である約350万人分が供給される予定であり、国は、流行前及び流行期間中におけるワクチン流通状況を把握するとともに、必要に応じてワクチンメーカー等に対して円滑な流通に向けての協力要請を行う。また、国及び都道府県等は、国民個人個人が自ら予防接種を受けるか否か判断できるように、インフルエンザワクチンの効果、副反応等の正しい知識の普及に努め、接種を希望する者が接種を受けやすく、かつ、接種を行う医師が安心して接種できる体制を構築していくことが重要である。特に、高齢者等の高危険群に属する者に対しては、自己判断を原則としつつ、インフルエンザワクチンの効果、副反応等について積極的に情報提供を行い、予防接種を推進していくこととする。なお、国及び都道府県等は、接種を希望する者が容易に接種を受けられるよう、日本医師会と連携を図り、インフルエンザ接種実施機関の把握と情報提供を進めていく。

(5)医療の提供への支援

 インフルエンザは、健康な人が罹患した場合に重症化することは少ないが、高齢者を中心として慢性疾患を有する者等が罹患した場合には、合併症を併発することにより重症化する場合が多く、また、乳幼児が罹患した場合には、脳炎や脳症を引き起こすことも問題として指摘されている。しかしながら、その症状は、普通の風邪と共通する点が多いことから、その鑑別診断は、容易ではない。したがって、インフルエンザ様の症状を呈する患者の診療に当たっては、十分な全身管理が求められる。したがって、国及び都道府県等は、医療関係者を支援していくため、医療機関向けに学術情報の発信強化等の整備を図ることが重要であり、日本医師会等との連携の下、インフルエンザに関する最新の医療情報、インフルエンザの発生動向調査、インフルエンザ様疾患報告等の患者発生情報等の提供を図る。

(6)施設内感染防止対策の推進

 インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いことから、集団生活の場に侵入することにより、大規模な集団感染を起こすことがある。特に高齢者といったインフルエンザに罹患した場合の高危険群の者が多く入所している施設においては、まず、施設内にインフルエンザウイルスが持ち込まれないようにすることが重要である。したがって、厚生省は日本医師会感染症危機管理対策室とともに、インフルエンザウイルスの高齢者施設への侵入の阻止と侵入した場合のまん延防止を目的とした標準的な手引きを策定し、都道府県等とともに各施設に普及していくこととする。その上で、各施設においては、施設内感染対策の委員会等を設置し、当該手引きを参考に、各施設の特性に応じた独自の施設内感染対策の指針を事前に策定しておくことが重要である。
 なお、高齢者等の高危険群に属する者が多く入所している施設においてインフルエンザの流行が発生した場合には、都道府県等は、当該施設等の協力を得ながら積極的疫学調査(感染症新法第15条に規定する感染症の発生の状況、動向及び原因の調査をいう。)を実施し、感染拡大の経路、感染拡大に寄与した因子の特定などを行うことにより、施設内感染の再発防止に役立てることが重要であり、国は、都道府県等から積極的疫学調査の実施に当たっての協力要請があった場合には、積極的に対応する。

(注)別添資料4:インフルエンザ施設内感染予防の手引き

(7)研究開発・調査の推進

 インフルエンザの特性に応じた発生の予防及びまん延の防止、良質かつ適切な医療の提供を推進していくためには、研究結果が感染の拡大や抑制、また、良質かつ適切な医療につながるような研究を行っていくべきである。特に、インフルエンザは、いまだに解明されていない点が多く、基礎、疫学、臨床等の各分野における知見の集積は不可欠であるが、これらの自然科学的側面のみならず、社会的側面や政策的側面にも配慮した研究を行っていくことが重要である。国においては、インフルエンザについて、新興再興感染症研究事業においてこれまで実施してきた研究に加えて、今冬に向けては、インフルエンザによる脳炎や脳症の調査研究、乳幼児等のインフルエンザワクチンの有効性・安全性に関する調査研究及び救急搬送・受入医療機関の状況に関する調査研究についても、積極的に推進する。

(8)その他

○関係機関との連携の強化

 厚生省は、インフルエンザ対策に関わる関係省庁とともに、普及啓発の推進、研究成果の情報交換を行うとともに、医師会等の関係団体との連携を強化するほか、報道機関等を通じた積極的な広報活動を推進していくこととする。なお、地域における感染症対策の中核としての保健所や都道府県等における病原体検査の中心的な実施機関としての地方衛生研究所には、インフルエンザ対策についても、各地域の実状を踏まえた上で積極的に貢献していくことが期待される。

○厚生省インフルエンザ総合対策連絡会議

 厚生省健康危機管理調整会議の下に、インフルエンザ対策省内関係課による厚生省インフルエンザ総合対策連絡会議を設置する。

○新型インフルエンザウイルス出現等への対応

 厚生省は、新型インフルエンザウイルスが出現した場合に備えて必要な体制整備等を進めるとともに、新型インフルエンザウイルスが出現した場合には、新型インフルエンザ検討会の報告書の内容を基に、厚生省健康危機管理調整会議等での検討を経て総合的な対策を実施する。