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はじめに 大阪市の結核事情は、有病率・罹患率などが全国平均より非常に高く、極めて深刻な状況にあります。このような状況を改善するため従来から種々の結核対策を講じてきていますが、一向に改善の兆しがみられておりません。そこで今一度基本に立ち帰り、本市の結核の現況を正確に把握するとともに、本市の結核を取り巻く諸々の要因がいかに影響しているのか、また、他の要因との関連性や影響度合いはどの程度なのか多面的、多角的に解明することとしました。 この調査事業では、結核発生動向調査事業からの情報を中心に保健所別に一般患者と行旅患者に分けて分析することに加え、「結核管理図」から得られる指標値を保健所ごとに詳細に分析することを行いました。また、既存の資料を整理し全国と比較することも行いました。 この事業の集計・解析については、財団法人結核予防会大阪支部に委託し、財団法人結核予防会結核研究所が中心となって分析が行われ、ここに報告書としてまとめました。この報告書が、本市の結核の状況のより層正確な理解と、効果的な対策の実施に役立つことを念願しています。 平成11年3月 大阪市環境保健局長
藤井 曉
1. 調査の目的 大阪市の結核事情は、有病率・罹患率などが全国平均より非常に高く、極めて深刻な状況にある。このような状況を改善するため従来から種々の結核対策を講じてきているが、一向に改善する兆しがみられないばかりか、結核罹患率、有病率、死病率ともに、近年ますます全国との差を拡大させている状況にある。そこで今一度基本に立ち帰り、本市の結核の現況を正確に把握するとともに、本市の結核を取り巻く諸々の要因がいかに影響しているのか、また、他の要因との関連性や影響度合いはどの程度なのか多面的、多角的に解明することとした。 2.調査の方法 大阪市の結核問題の概況は、毎年結核予防会から出版されている結核の統計から大阪市の結核蔓延状況の推移を全国と比較して評価すること、結核疫学指標を県別ならびに保健所別に比較することによって地域間較差を明らかにすることから検討した。また市内結核問題の大きさを地理的に把握するため、結核罹患率、塗抹陽性罹患率、治療放置率については保健所マップを作成した。さらに全国の中での保健所の位置づけを明らかにするため、結核疫学指標で保健所の頻度分布図が作成されている指標については、市内保健所の分布をその上に書き加えた図を作成した。 結核発生動向調査事業の情報を有効に活用した。平成9年に大阪市内24保健所で新規に登録された結核患者2,695名について、そのデータベースをもとに、一般患者か行旅患者かを識別できる項目を追加した。これによって患者の属性、登録までの状況、発見時病状、治療の状況等患者情報の分析を行った。これらの分析は保健所別、一般・行旅別に集計した。 平成9年の結核管理図を打ち出し、結核問題を視覚的に捉えるとともに、経年変動の問題を取り除くため、平成6年から平成9年の4年間の指標値を保健所ごとに一覧表にまとめた。これらを総合的に解釈し、保健所ごとの特徴をまとめた。 その他、大阪市が実施してすでにまとめている既存の資料であるコホート法による治療成績や「あいりん」結核検診成績などは全国の成績と整合性を持たせることで新たな資料を作成し成績の評価を行った。 1. 大阪市の結核蔓延の特徴と概況 a.結核疫学指標の推移 図1(表1)に大阪市と全国の結核罹患率、有病率、塗抹陽性罹患率、死亡率の推移を示した。結核患者の発生率を示す結核罹患率は全国の傾向と同様1980年代に入って減少傾向に鈍化がみられたが、その鈍化の程度はきわめて大きくその後の結核罹患率はほぼ横這いに近い状態で推移している。ちなみに70年代の大阪市の罹患率の減少速度は年平均8.6%(全国10.1%)であったが、80年代以降は1.9%(全国3.6%)であった。大阪市と全国との罹患率の較差は確実に拡大している。 結核罹患率の中でも塗抹陽性肺結核罹患率はその時代のその地域の結核感染状況に影響するものであるが、この値は全国でも微増傾向にあるが、図に示す1979年以降全国の値が年平均0.8%の増加率であるのに対し、大阪市では2.5%と増加の傾向が大きいことは注目されなければならない。従って地域への結核感染の危険性を把握するためにも、塗抹陽性肺結核患者については属性はもちろんのこと、社会的活動性まで立ち入った分析が求められる。 結核の有病率は結核の発生と緊密な関係にあるが、治療期間にも影響される。大阪市では全国に先駆け短期化学療法が普及したという経緯もあり、1980年代半ばまで、結核有病率の全国との較差は、罹患率ほどには大きくなかった。しかし図からも明らかなように1990年に入りその差は大きく拡大している。これは患者発生の較差が有病率にまで影響しているものと理解される。 大阪市の結核死亡率は1989年まで順調に低下し、全国との差も他の結核疫学指標に比べて小さかった。しかし全国の結核死亡率がその後も順調な低下を示したのに対し、大阪市の結核死亡率は1990年に減少から逆転上昇に転じ、1993年から94年にかけて時減少したもののその後も上昇を続けている。1990年以降の平均上昇率は年3.7%であり、この間全国では年平均3.3%の減少であるから結核死亡率の全国との較差拡大は他の疫学指標に比べ際だって大きいといえる。 このような大阪市での結核死亡率の上昇傾向が、発見の遅れが近年とみに悪化し発見される患者にすでに重症の者が多いのか、それとも治療成績が悪く結果として死亡に至る患者が多くなってきているのか等、結核死亡者の背景については詳細に検討する必要があろう。 表1 結核疫学指標の推移、1970〜97年(人口10万対率) 図1 結核疫学指標の推移、1970〜97年 大阪市罹患率 大阪市塗抹陽性肺罹患率 大阪市有病率 大阪市死亡率 b.結核患者発生状況と患者の特徴 ア.結核患者発生分布 大阪市の結核患者発生状況が地域によって大きく異なることはすでによく知られている。図2は結核罹患率を保健所別にランク分けしたものであるが、西成の罹患率人口10万対506.6は極めて高率であり、西成に隣接する浪速の260.7も、他の地域に比べると非常に高い値といえる。 大阪市ではこの西成、浪速を核にその周辺地域で結核罹患率は高いが、図2よりその他湾岸地域でも高い結核罹患率が観察される。 表2は平成9年(1997年)の新規登録結核患者2,695名を保健所別に一般患者か行旅患者かに分けたものであるが、大阪市全体の行旅患者の割合は20.7%であった。全国のこれについての成績はないが、0に近いと考えられることから、20.7%が非常に大きな値であることは確かである。しかもこの割合は西成の55.4%、浪速の40.3%から東成、城東、鶴見の0%まで大阪市内でも大きく異なっている。表2は罹患率の高い方からの降順位で保健所を並べ替えている。多少の食い違いはあるが、罹患率の高いところで行旅患者割合も大きくなっている。 また、表2では行旅患者を除いた一般の集団での患者発生率も観察した。行旅患者人口がわからないので、一般人口にはそれぞれの保健所の全人口を用いた。従って一般患者の罹患率は実際より小さく見積もられている可能性があるが、それでも人口10万対82.3とかなり高い。 次に大阪市の結核罹患率の高さについて理解を容易にするため、大阪市ならびに大阪市一般住民患者の結核罹患率を諸外国ならびに国内他の地域のそれと比較した(図3)。大阪市全体の結核罹患率は、わが国が結核対策を支援する国として有名なネパールとほぼ同じ水準にあり、このことは大阪市の結核問題は世界各国の支援対象に相当するくらい問題が大きいことを意味するものである。 大阪市一般住民の結核罹患率も韓国よりも13.6ポイント高く、大阪市を除く大阪府下の結核罹患率より28.6ポイントも高い。全国ならびに東京都に比べれば約50ポイントは高く、2.4倍もの較差がある。この理由には一般患者とされた中にも行旅患者に近い生活形態を呈する者も含まれているのではないかと疑われ、一般住民での高い結核罹患率については今後さらに分析が必要であろう。 図4−aは、結核罹患率と行旅患者割合の相関関係を図示したものである。すでに表2で罹患率の高さと行旅患者割合の相関の傾向が観察されているが、相関図からはさらに詳しくその関係と特徴が観察される。 行旅患者割合のみに着目すると、行旅患者割合がある程度以上大きな地域(10%以上)とそれ以外の地域の2つに分けられる。さらに前者は罹患率との関係から3つに分けられ、行旅の割合は大きいが、その割合以上に罹患率が極めて高い地域(赤の群:西成、浪速)、行旅の割合と罹患率が良く相関しその中で罹患率の高い地域(オレンジ色の群:天王寺、中央)、行旅の割合と罹患率が良く相関しその中で罹患率の低い地域(黄色の群:阿倍野、北、都島)である。 行旅の患者割合が10%未満の地域は、さらに2つに分けられそうである。一つは行旅の割合は小さいにもかかわらず罹患率が高い地域(緑の群:大正、此花、港、西淀川)、行旅の割合も小さく罹患率も大阪市の中では小さい地域(無色:その他)である。 図4−bは、図4−aで色分けした地域を地図において示したものである。この図から行旅患者の割合が高い地域は大阪市中央部南北に広がり、市の中心部に偏在しているのがわかる。その中でも結核患者の発生は西成、浪速で極めて高く、次いで浪速に隣接する天王寺、中央で高いことで、行旅患者と罹患率の高さにはかなり偏在的な地域性が見られた。 緑で示した地域は行旅患者の割合が小さいにも係わらず罹患率が高く、行旅患者以外で地域の結核の罹患率を高くする要因が示唆された。しかもこれらの地域はいずれも湾岸地域に面し、行旅患者同様高い地域偏在性を示している。この地域での結核患者の背景も詳細に分析する必要であろう。 イ.結核患者の属性 表3は性年齢5歳階級別にさらに一般・行旅別に結核罹患率をみたものである。大阪市の結核罹患率を高める要因の一つになっている行旅患者は、表で見る限り女性では非常に小さく、行旅患者は男性の罹患率にのみ影響するものと思われる。 実際、図5−aは性別、年齢階級別に結核罹患率をみたものであるが、これを一般患者に限ってみると(図5−b)、女性ではグラフの形はほとんど変わらないが、男性では40歳代から60歳代の中高年齢者の罹患率の山がかなり消失する。行旅患者の年齢も40歳代から60歳代にあり、このことは男性ではやはり行旅の影響が強く働いていることを示唆するものある。しかしながら、行旅患者を除いてもまだ全国より罹患率が非常に高いことは事実である。 女性では行旅患者がほとんどなく(表2)、行旅患者を除いても年齢別罹患率になんら変化はみられない。にもかかわらず小児(0−14歳)を除いたいずれの年齢階層でも、全国値に比べ罹患率は非常に高い。特に20歳代から40歳代の生産年齢層で罹患率がかなり高いことは感染の危険という点で大変気になるところである。これは小児への感染のリスクが高いことを示唆するものであり、大阪市の結核問題が今後長きに渡って続くことを意味するものである。若い結核患者の背景ならびに感染の状況を詳細に調査、分析する必要がある。 表4(図6)は新登録患者の男女比(女性に対する男性の比)を年齢5歳階級別にみたものである。男女比は40歳代から60歳代で拡大するが、大阪市ではこの年齢層での男女比がきわめて高い。この男女比も詳細にみれば、全国では40−54歳、いわゆる働き盛りの年齢層にピ一クが見られるが、大阪市ではこのピークがやや高齢に偏り50−54歳、次いで55−64歳となっている。これは表3にみるように行旅患者の年齢構成に影響されている。大阪市の一般患者に限定すれぱ、このピークはかなり小さくなるが、それでも40歳代から70歳代まで男女比は全国より大きく、大阪市では男性の結核患者が相対的に多いことを示している。 図2 大阪市内保健所別結核罹患数,1997年 表2.大阪市保健所別、一般・行旅別結核罹患数(率)、1997年 図3 結核報告率の国内国際比較,1997年 図4−a. 結核罹患率と行旅患者割合−相関関係− 図4−b. 結核罹患率と行旅患者割合−地理的分布の関係− 表3 性・年齢階級別,一般・行旅別,結核罹患率,1997年 図5−a 性・年齢階級別結核罹患率,1997年−全国と大阪市の比較− 図5−b 性・年齢階級別結核罹患率,1997年−全国と大阪市一般の比較− 表4 新登録結核患者の男女比,1997年 図6 新登録結核患者の男女比,1997年 男/女 c.地域の結核感染の危険について 地域への結核感染の危険の程度は感染危険率で知ることができるが、BCG接種率の高いわが国ではこの値を直接測定することは不可能であるので、人に感染させる危険の高い塗抹陽性肺結核患者の発生率でみると、図7に示すように、肺結核塗抹陽性罹患率の高い地域は全結核罹患率の高い地域とほぼ一致している。 全国の肺結核塗抹陽性罹患率は人口10万対12.7であるが、大阪市のこの値は35.8と2.8倍もの差がある。結核感染の様子は感染源となる患者の年齢構成や、社会活動、生活形態等で異なるので、この倍率で単純には推定はできないが、大阪市における結核感染の危険はかなり高いと考えられよう。保健所別でこの値が最も小さいのは東淀川の17.9であるが、これでも全国の値より大きく、大阪市では全域に渡って結核感染の危険が高いといえるだろう。 地域への感染の危険を低下させる最も効果的な方法は、排菌している時間を短くすることであるが、これには排菌している者の早期受診、医療機関側での早期発見、排菌患者の隔離、排菌患者の早期陰性化等があり、それぞれのプロセスごとに評価されなければならない。図8はその中で、排菌患者の隔離と確実な服薬治療が期待される入院治療に関係する状況を観察したものである。 図8−aは登録時肺結核入院割合を肺結核患者中菌陽性割合との相関関係でみたものである。患者の中での菌陽性割合が高ければ入院で排菌患者を医療機関に隔離して治療する割合(入院割合)が高くなり、正の相関関係があると考えられるが、実際にはそのような関係はみられない。 図8−bは登録時入院割合を塗抹陽性罹患率との相関関係でみたものである。赤で示すように塗抹陽性罹患率の高い西成、浪速では入院割合も大きく、塗抹陽性罹患率の低い東淀川では入院割合が小さい。従って排菌患者発生の高い地域では積極的に入院治療がとられているものと理解される。それに対し患者発生率が低い場合、菌陽性割合が平均的でも入院治療の措置はあまりとられないのかもしれないが、このあたりは医療機関での治療の取り扱いについて状況を調査する必要があろう。 排菌患者が速やかに菌陰性化し、治療が完了するかどうかは、患者の予後への影響とともにその地域の感染の危険に影響するところであるが、その評価を治療を途中で中断する治療放置率(年末活動性肺結果中医療無しの割合)でみると、大阪市は全体で4.0%の治療放置率となっている。この値は全国ではわずか1.9%であるから大阪市の治療放置率がいかに大きいかが理解されよう。 図9は治療放置率を保健所にランクでみたものであるが、必ずしも結核罹患率が高い地域(図2、図7)で治療放置率が高い傾向にあるとは限らなかった。注目されることは全結核罹患率、塗抹陽性罹患率が極めて高い西成で治療放置率は3.5%と大阪市全体より小さい値であることである。それに対し、西成に隣接し西成に次いで罹患率が高い浪速で14.7%と極めて高いのは注目されよう。 図10−aは排菌患者の管理という意味で塗抹陽性罹患率と治療放置率との相関関係をみたものである。浪速を除き治療放置率の高い地域には2つの傾向があるように感じられた。オレンジ色で囲んだ保健所は治療放置率が高いことに加えて排菌患者発生率が高いので、地域の感染の危険がより大きい地域、緑で囲んだ地域は治療放置率は高いが、排菌患者発生率は大阪市内では小さいので、感染の危険という点ではやや問題の小さい地域である。ただし、治療放置割合そのものが小さい値であるため年次変動も考慮にいれる必要がある。 なお治療放置率に影響を及ぼす背景を行旅患者の割合の相関をみることで検討した(図10−b)。行旅患者の割合が5%以上の保健所では西成を除き相関関係が観察された。赤で示す浪速、天王寺、阿倍野、中央は特に治療放置と行旅の関係が顕著であると思われた。行旅患者の割合が小さいにもかかわらず治療放置率が大きい城東、鶴見はその状況を調べる必要があろう。 図10−cは治療放置率との関係を別の角度、治癒以外の除外割合でみたものである。なお治癒以外の除外とは結核死亡、他の死亡、転症、転出、その他除外を指すものである。この治癒以外の除外の割合はやはり浪速でもっとも大きく、治療放置率の多いことがその背景にあると考えられる。これに対し中央、天王寺、都島でも治癒以外の除外割合が大きいが、これも図10−dにみるようにこの地域では行旅患者割合が多く、この問題が背景にあるものと思われる。 排菌患者の発生動向と、患者の治療成績を観察することは地域の感染の危険を監視する上で大変重要なことである。 図7 大阪市内保健所別肺結核塗抹陽性罹患率,1997年 図8 登録時肺結核中入院治療割合に関係する要因,1997年 a. 菌陽性割合との関係 b. 塗末陽性罹患率との関係 図9 大阪市内保健所別治療放置率,1997年 図10 排菌患者(登録時塗抹陽性患者)の管理と背景,1997年 a 治療放置率との関係 b 治療放置率と行旅患者の関係 c 治癒以外の除外割合との関係 d 治癒以外の除外割合と行旅患者の関係 d. 患者発見と治療について 地域への結核感染の危険性を小さくするためには患者を早期に発見し、治療を成功させることにあるが、大阪市では西成保健所管内にある「あいりん」地域において特に「あいりん結核検診」を実施しているが、その発見率は図11に示すように極めて高い。 発見された患者の治療成績は結核患者の再発を阻止し、地域の結核感染機会の減少につながることとなる。図12にはコホート分析による治療成績を大阪市の一般患者、行旅患者を「あいりん」地区の行旅患者、その他地域の行旅患者と分けた成績を示す。行旅患者では一般に治療脱落が多く、治療成績は好ましくないが、「あいりん」地区の行旅患者の治療成績は他の行旅患者の治療成績に比べれば良い成績を収めている。 これは先に西成保健所での治療放置率の低さと無縁ではないであろう。西成での登録時入院治療の割合が市内で最も高いこと、付5)資料にもあるように入院の期間が長期に渡っていることを加味すると、排菌患者を入院によって隔離し、自己退院などによる脱落がないよう管理されているものと推察される。それにはrあいりん」地区に西成保健所の西成分室を設置し、行旅患者の診断を行い、「あいりん」検診を実施するなど特別な結核対策が功を奏しているのかもしれない。 図13、図14、表5は大阪市内で結核蔓延の最も大きい西成保健所と浪速保健所の結核罹患率の推移を比較したものであるが、近年の西成保健所の罹患率、塗抹陽性肺結核罹患率にはやや改善の兆しが現れているようである。これに対し浪速では問題の大きさは西成より小さいものの改善の兆しがみられない。この違いは単に保健所の行政努力の違いで片づけられる問題ではなく、行旅患者の居住の実態、診断、治療、管理についての取り扱いの問題(福祉の関係も含めて)等が複雑に影響しているものと思われるので、その背景の詳しい状況調査をする必要がある。 図11 実施主体別結核検診からの患者発見率 図12 コホート分析による肺結核患者の治療成績,1994−95年 図13 特定保健所の結核罹患率の推移,1975−97年 図14 特定保健所の塗抹陽性肺結核罹患率の推移,1979−97年 表5 特定保健所の結核罹患率の推移,1975−97年 2. 結核発生動向調査事業情報からみた結核問題 平成9年新規に登録された2,695名の結核患者について保健所レベルの年報情報に、一般患者か行旅患者かの情報を加えてクロス集計を行った。集計は、総数・一般・行旅別に表分けし、その中で保健所別に集計した。なお、登録時の菌検査情報は厚生省に報告した以降も明らかになったものについて情報が更新されており結核の統計と異なっている。集計した結果は付1の表1〜表11に示す。 a.一般・行旅別保健所別結核患者の背景 表1に性年齢階級別患者数を示す。結核患者の男女の割合が保健所によって大きく異なっている。男性の患者の多い順に保健所名を挙げると、西成90.7%、浪速84.5%、大正79.3%、港76.7%と続く。西成、浪速は行旅患者の影響、大正、港は行旅患者は少ないが一般の男性が多いという特徴が見られ、湾岸に位置しているという共通の背景がある。 年齢別では、0−14歳、15−29歳、30−59歳、60歳以上の4階級に分けると30−59歳が最も多く46.1%、次いで70歳以上の43.7%であった。30−59歳の中年齢層の割合が最も大きいのは都島59.3%で、浪速54.3%、西成52.3%、此花50.7%と続く。都島から西成までは行旅患者のでこの年齢層が多いことの影響によるものと思われるが、此花は湾岸に位置し行旅患者は少なく、一般でのこの年齢層が多い。 最近の結核感染の可能性と危険性という視点で15−29歳の患者発生をみると、旭で23.0%と最も大きく、次いで西20.4%、天王寺19.0%と続く。天王寺は全年齢の結核罹患率も人口10万対112.7と大阪市内で5番目であるので、若年者での感染の危険に特に注意する必要があろう。 表2に職業別患者数を示す。保健所によって職業割合が大きく異なるのは他の臨時雇い・日雇いの割合と無職の割合である。この2つにはやや相関が見られるが、行旅患者の多い地域では無職が多く、行旅は少ないが湾岸に位置している地域では他の臨時雇い・日雇いの割合が多くなるという特徴も見られるようである。 b.一般・行旅別保健所別結核患者の病状および治療の状況 表3は診断別の結核患者数を示すものである。肺結核は95.7%で全国の肺結核割合93.5%より若干大きい。行旅患者552名は100%肺結核であった。 表4に発見方法別、治療歴別、発見時呼吸器症状別患者数を示す。医療機関発見が83.4%と最も大きいが、一般患者ではこの割合は81.1%とやや低いのに対し行旅患者では91.5%と高い。 治療歴のうち再治療は全体で17.6%であるが、一般では10.8%に対し行旅患者は42.9%と非常に大きい。行旅患者の多い西成、浪速についてみるとその割合は47.3%、40.4%と若干西成で大きい。先に「あいりん」地区(西成の一部)の治療成績は他の行旅(浪速含む)に比べて良好であること、西成は浪速に比べて治療から脱落する割合が小さいことをあげた。治療成績がよければ再治療割合は小さくなってよいはずであるが、治療成績と再治療割合に逆の関係がみられ、結核とする患者の診断をかく乱する要因が働いてないか等、状況を調査する必要があろう。呼吸器症状は一般が72.5%に対し、行旅患者では66.2%とやや小さいのも、このかく乱要因にあるのかもしれない。 表5に受診の遅れ、診断の遅れ、発見の遅れを示す。遅れは2ヶ月以上遅れの割合で集計した。受診の遅れ2ヶ月以上は一般で24%であるのに対し行旅は34%と大きい。逆に診断の遅れ2ヶ月以上は一般の24.3%に対し行旅は5.3%と小さい。 表6に保健所別、学会分類性状別患者数を示す。一般患者のT型の割合2.3%に対し行旅患者では8.3%と大きく、U型の割合も一般43.4%に対し行旅52.2%と行旅患者では空洞を形成して発見されることが多い。 表7に菌検査総合結果別患者数を示す。喀疾塗抹陽性割合は一般で大きく36.8%であるが、行旅では27.4%であった。他結核菌陽性も一般の方が大きく、一般の患者のほうが排菌を伴って発見されていた。空洞と排菌との関係が一般と行旅で逆であったので、診断の過程における状況を調査するとともにさらにデータを増やして観察することが望まれる。 表8に塗抹検査結果別患者数を示す。この結果も一般で陽性の割合が大きいという結果であった。 表9に培養検査結果別患者数を示す。この結果では塗抹検査と反対に行旅で陽性割合が高かった。行旅では菌検査結果がよく把握されていたが、一般では検査中の割合が行旅の2倍であるという問題がみられ、今後一般患者における菌検査結果の把握により努力する必要があろう。 表10に発見時合併症別患者数を示す。合併症無しは一般の67.2%に対し行旅では36.8%と行旅患者では合併症が多いことがわかった。なお行旅患者の合併症でもっとも多いのは糖尿病で11.1%、肝障害は4.3%であった。 表11に登録時受療状況別患者数を示す。入院治療は圧倒的に行旅患者で多く、一般の58.5%に対し、行旅では95.7%とほとんどがまず入院で治療を受けていた。 3. 結核管理指標からみた結核問題 結核管理図は「結核問題」を単に蔓延だけでみることはせず、多くの指標に反映される多面的なものとして、包括的に評価していくものである。多くの指標をいくつかのグループにわけることで結核問題の評価に焦点をさだめることができる。評価の基準は選択した地域群の各指標値の平均値である。この平均値から標準偏差を単位として対象地域の値のずれを測っている。このずれは正規分布の法則に従って表現されるが、平均からプラスマイナス1標準偏差の中に68%、2標準偏差の中に約95%のものが入るということが分かっている。従って、逆に考えれば、ある指標がプラスマイナス2標準偏差以上になっているのは、上位から2.5%、下位から2.5%しか入らない希なことと理解できる。このことから平均から大きく隔たったところの指標を取り上げても対象地域の結核問題の特徴を知ることができる。 ただし指標値の県別、保健所別の分布型が正規分布をしていない場合には管理図の棒グラフは先に述べたような法則に従わないことがあるので、注意を要する。特徴的なものは対数正規分布と言って値の大きい方に長く裾を引くような分布型をもっているもので、典型的な指標としては、有病率(付4−3)、マル初罹患率、肺外結核の割合、転症除外の割合、病状不明の割合、活動性中医療なしの割合、生活保護の割合などが挙げられる。これらの指標に共通していることは自然の法則で決まる分布が人為的な要因でかく乱されていることである。このような指標値の場合は管理図(付2、付5)左の括弧内の降順位(単に指標値の大きい方からの順位)から、その指標値の県、保健所の位置づけを確認することができる。 結核の管理図は視覚的に容易に結核問題の特徴を捉えられるように右側には平均より問題が大きいと思われるもの、左は好ましいと考えられるものがくるように工夫されている。そのため幾つかの指標(大きい値が好ましいとされるもの)は棒グラフだけその方向を逆にしている。 大阪市の保健所の管理図の場合、結核の蔓延を示す最初のグループ(指標値群)は著しく蔓延の大きな保健所の値によって平均値が引き上げられ、それに続く結核蔓延の大きな地域が棒グラフでは正当な長さに表現されていないので注意をする必要がある。従って実際の値の大きさを平均値と比較する、順位(大きい値からの降順位)を参考にするなど評価の視点を変える必要がある。 a.大阪市の結核問題の特徴 この結核管理図(付2)は指定都市を別掲として除いた都道府県と12指定都市の計59都道府県・市の各指標値をデータとして作成された大阪市の結核管理図である。最初の指標値のグル−プである結核蔓延状況はすべて3標準偏差以上にあり、順位でも大きい方からおしなべて第1位(括弧内の数字)を示している。これからも大阪市の結核蔓延状況は特に問題が大きいことが理解できる。 その他の指標で3標準偏差以上にあるのは再登録の割合と生活保護率である。再登録の割合は17.6%であり、このことは5〜6人に一人が結核登録除外のあと結核を発病し再度登録治療を受けていることを示す。この値は全国の2倍にあたる。また患者の治療が生活保護で行われている割合も30.5%と非常に大きく、大阪市の結核患者はかなり他の地域と異なる社会背景であることがこの数字から読みとれる。また30−59歳の年齢層が多いという特徴もみられる。 平成6年から9年の4年間の指標値一覧(付3)をみてもこの傾向は変わらない。ただ、再登録の割合がこの4年間に13.4%から毎年確実に拡大し平成9年には17.6%に達したことは注目すべきであろう。治療脱落により登録削除されその後再発し再び登録されるような例が多いのか、かなり以前に治癒したものが再発するのか、再発の中に実は結核ではないものが含まれる事情があるのかでは、患者管理の上でも今後の方策を立てる上でも大きく異なるので、この問題は詳細に調べる必要があるだろう。 この他4年間の指標値一覧から、肺外結核割合が全国に比べ小さいという傾向が観察されるが、肺外結核の感染源としての危険は小さいので特徴として理解されればよいであろう。しかし発見の遅れには問題がありそうである。一般に受診の遅れが顕著であれば診断の遅れは短いというように受診の遅れと診断の遅れには逆の関係がみられるが、大阪市では1ヶ月以内の受診の割合、1ヶ月以内の登録の割合ともに小さく、その合算である発見の遅れは57県・市の中で過去4年下位から2、3位という状況にある。その他登録時入院治療の割合が大きく入院期間が長い、医療放置率(年末活動性中医療無しの割合)が大きく治癒除外率(登録除外中治癒の割合)が小さいことも4年間変わらぬ特徴となっている。 b.保健所別頻度分布図からみた大阪市の結核問題 結核予防会発行の結核の統計には、結核管理指標のうち選択された10個の指標について全国保健所分布が掲載されている。この分布を利用し大阪市内保健所の位置を示したものが付4である。 1) 結核罹患率 平成9年の全国結核罹患率は人口10万対33.9であるが、全国710保健所の罹患率の分布をみると、その分布は正規分布とよぶにはあまりに下の方(値の高い方)へ分布が広がっている。しかし罹患率の場合有病率のようにだらだらと高い方へ裾が広がっていくというより、値の高い保健所は極端に高いので、2つの特徴のある分布が重なっている分布に例えられるかもしれない。なお罹患率100以上をしめす保健所は全国で14保健所あった。その中に大阪市の保健所は5箇所も含まれている。大阪市で最も罹患率の低い鶴見保健所でも全国の保健所の分布に照らせば、全体の分布型から外れて大きいと言わざるを得ない。大阪市ではある特定地域で問題が特に大きいことはよく知られているが、この図から大阪市全体でも全国に比べると非常に問題が大きいことを認識する必要があろう。 2)塗抹陽性罹患率 これも罹患率同様全国の分布の中心から外れた高い値のところに、大阪市のほとんどの保健所が分布していることを認識する必要があろう。 3)有病率 有病率は全体にばらつきが大きいが、これも大阪市全保健所でかなり値が高いことは罹患率と同様である。 4)60歳以上の割合 大阪市では全体の分布に比べ60歳以上の割合は相対的に小さい。このことは逆に若い年齢層で結核問題が大きいことを意味する。59歳までの年齢層は社会的に活動の範囲が広く接触する人数も多いと考えられることから、地域の感染危険はより大きいと認識しなければならない。 5)肺外結核罹患率 肺外結核罹患率も結核発病率の大きさであるので、罹患率、有病率と同様の特徴があるはずであるが、大阪市の保健所が極端に高い方へ偏っていることはない。これには大阪市の肺外結核罹患率が人口10万対4.5で全国の2.2に比べて2倍の大きさにあるものの罹患率、有病率の3倍もの較差にくらべると差が小さいことによる。大阪市では肺結核を中心に結核の診断がされていると理解されるのと、肺外結核は感染の危険という点では問題が小さいので大阪市の結核の特徴として理解する程度でよいであろう。 6)発見の遅れ2ヶ月以内の割合 これは呼吸器症状がでてから初めて医療機関を訪れ、最終的に(この間幾つかの医療機関にかかることあり)結核と診断され保健所に登録されるまでの期間が2ヶ月以内の割合である。従ってこの割合が大きいほど患者発見が迅速であり、逆にこの割合が小さいほど、患者発見に問題があることを示す。大阪市の場合、全体にこの割合が小さく、患者発見に問題があることが伺われる。大阪市の分布図から2つのグループが観察されるようである。より値の小さな福島、北、旭、鶴見保健所は地理的にも東西に連続した線につらなっているので、発見が遅れる共通の要因がないか背景を検討する必要がある。 7)新登録肺結核中菌陽性の割合 全国分布に準じた分布型と言えよう。 8)平均有病期間(月) これは有病者数(率)を罹患数(率)で除して得られた比に12を乗じて月で表した推定有病期間(治療期間)である。この分布も全国の分布型に準じていると言えよう。 9)年末活動性肺結核中H単独処方の割合 標準化療が終了したあとHを単独で処方することの根拠はないがわが国では広くこの処方が行われており、これが長期治療につながっている。大阪市のこの値は全国並であるが、大阪市の分布の中で住之江、港、城東、中央がはずれた分布を示す。港を除いては過去4年間のうち平成9年がもっとも大きな値だったので年次変動の範囲かもしれないが、港は背景をみる必要があろう。 10)年末総登録中5年以上登録の割合 大阪市内保健所の分布のピークは全国分布と同じであるが全体には短いほうに偏っており、長期登録の問題は小さいと思われる。 c.保健所別結核問題の特徴 付5に示す保健所別結核管理図と、付6に示す保健所別結核管理指標覧から、大阪市内24保健所の結核問題の特徴を観察する。保健所別管理図は大阪市24保健所と大阪府下30保健所計54保健所の各指標値の平均値と標準偏差から作成されたものであるので、必ずしも大阪市内での保健所の位置づけとはなっていないことを念頭において評価されたい。また結核蔓延に関する管理図の棒グラフは特に蔓延の大きな保健所の影響で妥当性を欠いていていることから、蔓延に関する評価は指標値の値を比較する、順位を比較する方法で検討する。 5802)都島 蔓延の状況は平均的であるが、30−59歳の割合が54保健所中最も大きい。また菌陽性割合も平成9年は最も大きい。この年齢層で重症で発見される者が多ければ地域での結核感染の危険が高いことを意味するので注意する必要があろう。 5803)福島 管理図からは発病から初診まで1ヶ月の割合が38.1%と小さく、受診の遅れが危倶されるが、過去4年間を通して小さいわけではないので管轄人口が小さいことによる年次変動の範囲かもしれない。 5804)此花 管理図からは福島同様受診の遅れが危倶されるが、これも年次変動の範囲かもしれない。 5806)西 管理図から特徴的なものはあまり感じられないが、4年間の指標値からは発見の遅れの問題は小さいようである。平成6年7年と20%以上あったH単独の割合が平成8年9年と7.8%、4.6%に低下したことは評価されよう。 5807)港 標準化療方式ではいつの時点でもHRは使われているが、この使用せずの割合が大きい。過去4年を観察してもその傾向にあるので、どのような例にHRが使われていないのか一度調べてみることは重要であろう。なお、年末活動性中H単独の割合も大きいのであわせてこの点を調べるとよいであろう。菌陽性割合が過去4年間24.4%〜32.6%と小さく、軽症で発見されている患者が相対的に多いと考えられる。これは患者発見を積極的に行っていることに起因するものであれば良いが、保健所での菌検査情報の把握に問題があるのであれば改善を図らなければならない。 5808)大正 管理図からは特徴的なことはみられないが、結核蔓延は県の平均よりかなり大きいことを認識しなければならない。2年以上治療割合がやや多く長期治療の問題も検討する必要があろう。 5809)天王寺 結核の蔓延が大きい。入院期間が平均に比べ長い。生活保護率高く、治療放置率(年末活動性中医療無しの割合)も高い。社会経済的に問題を抱えた患者の特徴を反映していると考えられる。 5811)浪速 結核蔓延が大きな問題である。特徴は医療放置率が高く、反対に治癒で除外される割合が大変小さいことである。これらは治療成績に結びつくので、まず早急にこの問題を改善させる必要がある。 5813)西淀川 管理図からは特には特徴はみられない。登録時入院割合が小さいがこれは平成9年に限ったものであった。病状不明がやや多いが平成6から8年はそれよりも多いので、病状不明の背景を調査し改善に努める必要がある。 5814)東淀川 登録時の入院治療割合が低いことが特徴としてあげられる。この傾向は過去4年(24.2〜29.5%)を観察しても同じ傾向にあった。 5815)東成 患者の年齢がやや高齢にあることが特徴としてあげられる。 5816)生野 結核管理図からはあまり特徴的なことは観察されない。 5817)旭 蔓延は県平均よりやや低めであるが、発見の遅れのうち診断の遅れに問題がありそうである。過去4年を通し1ヶ月以内診断割合が16〜33%でありこれは大阪府平均に比べてもかなり小さい、初診の時期が丁寧に問診され正確に入力されているとすればこの割合が大きくなりこれは大変好ましいことと評価される。しかし、実際に診断に遅れがあれば問題なので、この実態を調査する必要があろう。 5818)城東 菌陽性割合が大きく、過去4年を等してもその傾向にある。医療放置率が大きいが、これは特に平成9年が大きくそれ以前の3年は大阪市全体より小さかった。その他H単独の割合が大きいがこれも平成9年が特に大きかったといえる。 5819)阿倍野 特徴は年末活動性中医療無しが多く、生活保護率も高い。社会経済的に問題を抱えた患者の特徴が管理図に現れていると考えられる。 5820)住吉 結核管理図からはあまり特徴的なことは観察されない。 5821)東住吉 高齢の患者がやや多いといえる。 5822)西成 大阪市で最も結核が蔓延している地域である。30−59歳割合が大きい。入院治療の割合が最も大きく入院治療期間も最も長い。しかし医療放置率は小さいので患者治療に関する管理評価されよう。受診の遅れはあるが診断の遅れは小さい。 5823)淀川 治療期間がやや長い傾向にある。 5824)鶴見 治療放置率(年末活動性中医療無し)が平成7年7.1%、平成9年6.9%と時々高くなる。 5825)住之江 平成9年は肺外結核罹患率が高く、肺外結核割合が大きい。これほど大きくはないが過去4年間もこの傾向は観察された。特に平成9年は年末活動性中HR無しの割合、H単独の割合が大きいが、過去4年もややその傾向があった。 5826)平野 感染性の割合が大きい傾向は過去4年を通しても同様であった。また菌陽性割合も同様大きい傾向にあった。 5827)北 有病期間が長く2年以上治療の割合も大きい。この傾向は過去4年を通しても観察された。 5828)中央 化療に関する指標がすべて右に出ている(問題がある)のが目に付く。これは過去4年間も同じ傾向であった。治癒除外の割合が小さくこの傾向はこれまでもみられるので、治癒以外の除外理由が、転出なのか、治療脱落による除外か調べる必要があろう。 1.結核蔓延状況 大阪市の結核罹患率は全国の傾向と同様1980年代に入り減少傾向が鈍化し、その後の結核罹患率はほぼ横這い状態で推移している。1980年以降の大阪市の結核罹患率の減少速度は年1.9%であり全国平均(3.6%)との差が拡大している。 その地域の結核感染状況に影響する塗抹陽性肺結核罹患率は1979年以降全国でも微増しているが大阪市では年平均2.5%づつ増加しており(全国0.8%増)、較差の小さかった有病率も1990年に入りその差を拡大させている。結核疫学指標でもっとも注目されるのは大阪市の結核死亡率である。それは1989年まで順調に低下し全国との差も他の結核疫学指標に比べて小さかったが、全国の順調な低下に対し大阪市では1990年から逆転上昇に転じている。 2.大阪市内の結核の地域較差 大阪市の結核患者発生状況が地域によって大きく異なることはすでによく知られており、西成(平成9年罹患率506.6)、浪速(同260.7)は大阪市内の他の地域に比べ蔓延が非常に大きい。この西成、浪速は大阪市の中央部に位置し地理的にも隣接しているが、その周辺地域の結核罹患率も高い。その他湾岸地域で高い結核罹患率が観察される。 大阪市の24保健所の中で罹患率が最も低いのは鶴見保健所であるが、それでも人口10万対53.4という値は全国平均の33.9に比べて非常に高いと言わざるをえない。大阪市では特別な地域だけが結核蔓延が高いわけはないことを強く認識する必要があろう。 3.大阪市の結核患者の特徴 大阪市では結核患者に行旅患者が多く(20.7%)、保健所別の結核問題もこの行旅患者の割合によって特徴づけられている。蔓延の最も大きい西成でこの割合は55.4%、浪速で40.3%であるが、行旅患者が0%という保健所(東成、福島、城東、鶴見)もある。ただし大阪市の結核問題が行旅患者によってのみ特徴づけられているのではないことは、行旅患者を除いた一般の患者に限っても様々な面で全国との違いを見せている点である。大阪市の行旅患者を除いた一般患者の罹患率は人口10万対82.3と計算され、全国の2.4倍に相当する。 大阪市の結核患者の年齢構成が中高年齢層で多いというのも大きな特徴である。若い年齢層での結核患者発生は地域の結核感染の危険につながるが、全国では30−59歳の患者が34%であるのに大阪市では46%と全国59県・市の中で2番目に大きい。 その他、大阪市では男性の結核患者(75.3%)が女性の結核患者(24.7%)に比較してかなり多いという特徴がある。行旅患者の98.7%が男性であることの影響はあるが、一般の患者に限っても男女比は2.2で全国の1.8に比べ大きい。行旅患者がほとんどいない女性に関してその年齢階級別罹患率をみると、小児(0−14歳)を除いたいずれの年齢階層でも、全国値に比べ罹患率が非常に高い。特に20歳代から40歳代の生産年齢層で罹患率がかなり高いことは子供への感染の危険という点で大変気になる。 4.行旅患者の特徴 行旅患者で最も大きな特徴は治療から脱落する患者の割合が大きく、その結果、治療成績が悪くなることである。ただし、大阪市のコホート分析で行った結核患者の治療成績では、全体に行旅患者の治療成績は良くないものの、「あいりん」の行旅とその他行旅で治療成績に大きな違いがあった。この成績は「あいりん」の患者を多く含む西成保健所の治療放置率が低く、その他行旅の患者が多いと考えられる浪速で治療放置率が高かったことと無関係ではないであろう。 全体に行旅患者の特徴として挙げられることは、行旅患者の91.5%は医療機関で発見されているが、呼吸器症状は66.2%と小さい(一般72.5%)。受診の遅れ2ヶ月以上は一般で24%であるのに対し行旅は34%と大きいので重症.化して発見される可能性は高く、現に行旅患者の学会分類T型は8.3%、U型は52.2%である(一般T型2.3%、U型43.4%)である。しかしながら菌検査総合結果の喀疾塗抹陽性割合は27.4%と一般(36.8%)に比べて小さく、他結核菌陽性も小さいこと、行旅患者での再治療が17.6%(一般10.8%)と一般より多い状況等から行旅患者の背景にやや過剰診断の存在も想像される。 その他行旅患者には合併症を伴っている患者が多いのも特徴である。行旅患者で何らかの合併症あり63.1%で一般の32.8%に対し約2倍である。内訳は糖尿病11.1%、肝障害4.3%、その他47.7%である。行旅患者の治療は95.7%(一般58.5%)がまず入院でなされており、診断、治療、患者管理において行旅患者はかなり一般の患者と特徴を異にしているといえよう。 付1.結核発生動向調査情報の分析結果
付2.大阪市結核管理図 58 大阪市 付3.大阪市結核管理指標一覧 結核管理図 都道府県・市別掲 大阪市 表1 新登録結核患者数−性別,年齢階級別−その1 総数 付4.指標値別全国および大阪市の保健所分布 全国保健所別にみた指標値の分布
付5.保健所別結核管理図
付6.保健所別結核管理指標一覧
大阪市の結核の現状
結核発生動向調査情報を中心とした分析調査報告書 大阪市環境保険局 平成11年3月 財団法人結核予防会結核研究所 東京都清瀬市松山3−1−24 TEL 0424-93-5711 |