腸管出血性大腸菌による食中毒の対策について

平成13 年4 月27日
薬事・食品衛生審議会食中毒部会

 本日、薬事・食品衛生審議会食中毒部会を開催し、本年3月及び4月に発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒事件の調査結果が厚生労働省及び関係自治体から報告され、今後の発生防止対策に関する本部会の意見を下記のとおりとりまとめた。

1 テンダライズ処理やタンブリング処理を行った食肉が原因食品とされた食中毒事件について

 テンダライズ処理(針状の刃を刺し通し、原形を保ったまま硬い筋や繊維を短く切断する処理)やタンブリング処理(調味液を機械的に浸透する処理)を行った食肉に関しては、調理段階で中心部までの加熱が必要な旨、表示等により情報提供を行うよう、厚生労働省は都道府県等を通じて、行政指導してきた。しかし、本事例においては、表示等が行われていなかったことが発生原因のひとつとなっており、これらの処理を行ったため、中心部までの加熱が必要である旨を表示することを義務化する必要がある。また、結着肉についても、食肉内部に微生物汚染のおそれがあることから同様の表示が必要と考えられる。

2 「牛タタキ」及び「ローストビーフ」が原因食品とされた食中毒事件について

(1) 「牛タタキ」については、原料肉の汚染が要因のひとつと考えられており、食肉の微生物汚染について、輸入食肉のモニタリング検査の充実、と畜場法の基準の遵守、枝肉の微生物検査の推進、加工者による原料肉の管理の徹底などさらなる低減化措置を図る必要である。

(2) 「牛タタキ」の処理工程において、生食用食肉の衛生指導基準の不適合の可能性があり、さらに調味過程で原料肉の表面汚染が内部へ浸透したことが示唆されたことから、当該基準の遵守、原料肉の調味等による処理は行わないよう指導するべきである。

(3) 「牛タタキ」が十分な加熱が行われていない食品であることを考慮すると、広範な食中毒の発生を防止するためには、食肉処理施設において「牛タタキ」を大量に処理し、広域流通させることは、リスクを高める結果となるので、飲食店等において処理後、同一施設で速やかに喫食されることが望ましい。

(4) 「牛タタキ」は販売店で購入後家庭等で喫食されたほか、販売店においても試食で提供され、これを食べた幼児、学童等が重症化した事例もあった。
 若齢者については、重症事例の発生を防止する観点から生肉又は加熱不十分な食肉を食べさせないよう販売者、消費者等に注意喚起を行うべきである。
 また、高齢者のほか、抵抗力が弱い者に対する配慮が必要である。

(5) 「ローストビーフ」は、「牛タタキ」からの腸管出血性大腸菌O157の汚染を手指、機械器具等介して汚染を受けたと考えられ、これらの洗浄消毒の徹底が必要である。


(参考)

事例1 滋賀県等で発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒事件

(1) 3月4日に滋賀県の保健所に腸管出血性大腸菌O157(以下「EHECO157」)の患者として医療機関から届出があった子供について、保健所が調査した結果、2月25日に、あるチェーン・レストランで家族とともに「ビーフ角切りステーキ」を食べていた。

(2) 滋賀県のほか、富山県、奈良県で3月初旬にそれぞれの所轄の保健所に届出があった上記患者と同一のPFGEパターンを有するEHECO157の患者5名についても、同じ系列のチェーン・レストランで「ビーフ角切りステーキ」を食べたことが判明した。

(3) これらのチェーン・レストランファミリー・レストランで「ビーフ角切りステーキ」に使用した加工日の異なる原料肉を検査した結果、患者から検出されたEHECO157と同一のPFGEパターンを有するEHECO157が確認された。
 これらの「ビーフ角切りステーキ」の原料肉199検体中85検体からEHECO157が検出され、PFGEパターンも同一であった。また、他に共通する感染源がないことも確認された。

(4) 本事例における患者数は6名、入院者は2名、HUSを発症した者はなく、患者の潜伏期間は平均4日(範囲:2.5〜7日)であった。

(5) この「ビーフ角切りステーキ」の原料肉は肉を柔らかくするため、埼玉県の食肉加工施設でテンダライズ処理とタンブリング処理をし、さらに結着処理を行っていた。

(6) また、原料肉と同一の輸入ロットの食肉を検査したところ、同一のPFGEパターンを有するEHECO157が18検体中2検体検出され、当該食肉加工施設で処理されたものからは41検体中9検体検出された。

(7) 厚生労働省では、昨年の秋以降、これらの処理をした生肉には、内部まで十分加熱する必要があることを表示して、加熱調理が十分するよう指導をしてきたが、当該品には、その旨の表示等はなかった。

(8) 本食中毒は、テンダライズ処理とタンブリング処理がされているにもかかわらず、中心部までの加熱が必要な旨の表示がなく、さらにチェーン・レストランでは、肉塊の内部に入ったEHECO157が加熱不十分な状態で、提供されたことが原因と考えられた。


事例2 千葉県等をで発生した腸管出血性大腸菌O157食中毒

(1) 3月16日以降、4月25日までに千葉県、埼玉県、神奈川県等1都6県2保健所設置市で同じPFGEパターンを有するEHECO157が204名の患者から検出された。

(2) 患者の最も多い千葉県の一部の患者の間で共通食として記憶が一致したチェーンストアで販売していた「牛タタキ」から患者と同じPFGEパターンをもつEHECO157が検出され、他に共通する感染源もないことからこの「牛タタキ」が原因であるとされた(横浜市の患者宅の未開封の「牛タタキ」からも同菌を検出(MPN:23cfu/g))。

(3) 一部の患者は「牛タタキ」と同じ製造施設で製造した「ローストビーフ」を食べて発症したことが確認されたため、4月3日、「牛タタキ」及び「ローストビーフ」について、製造者に対し、管轄する栃木県が回収を命令した。

(4) 4月25日までに、当該「牛タタキ」又は「ローストビーフ」を食べたEHECO157検出患者は193名(53名の無症状病原体保有者を含む。)であった。
 また、「牛タタキ」から検出されたEHECO157と同一のPFGEパターンを有すると確認された者は240名であった。

(5) 本事例における入院者は82名、HUSを発症した者13名(平均年齢6.7歳(女10名(2〜10歳)、男3名(3〜6歳))であった。また、潜伏期間は平均4.9日(範囲:0〜15日)であった。

(6) 「牛タタキ」及び「ローストビーフ」の製造加工過程を調査した結果は以下のとおりだった。

ア 「牛タタキ」は、同一ロットの原料肉からも17検体中3検体(MPN:<3〜43cfu/g)からEHECO157が検出され、うち、2検体は同一のPFGEパターンを有していたこと、再現試験の結果、調味過程において原材料肉の表面の微生物汚染が肉中に浸透することが示唆されたこと等から、表面又は内部に浸透したEHECO157が「牛タタキ」に残存し、本食中毒の原因となったと考えられる。
イ さらに「牛タタキ」の処理過程では、製品表面のみの検査、各肉塊の処理が終了する毎に洗浄消毒を行っていない可能性があるなど生食用食肉の指導基準が遵守されておらず、これらも発生要因となった可能性がある。
ウ また、「ローストビーフ」は食品衛生法の製造基準に従った加熱が行われ、「牛タタキ」とは異なる原材料、方法により製造されていたが、「ローストビーフ」のみを喫食したとしたとする患者28名からも同じPFGEパターンを有するEHECO157が検出されていることから製造施設内又はこれらをカットした特定のチェーンストアの調理施設で「牛タタキ」から汚染を受けたと考えられる。
エ 本食中毒は、千葉県等の特定のチェーンストアで販売された「牛タタキ」及び「ローストビーフ」を原因として、千葉県において多くの患者が報告された。これは、原因となったと考えられる「牛タタキ」のロットの出荷先の約4割が千葉県であったこと、試食等によって多くの人に喫食されたこと、千葉県が本事例を最初に探知し、報道等行った結果、検便数が突出して多かったこと等によるものと思われる。


照会先:厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課
    高谷課長
 担当:道野補佐、宮川補佐(内2473)