参考資料



資料8



結核定期外健康診断ガイドライン


(厚生省保健医療局結核・感染症対策室)
(平成4年12月8日健医感発第68号の別紙2)



厚生省保健医療局
結核・感染症対策室





結核定期外健康診断ガイドライン


目次
第1章: 結核感染についての基礎知識
1. 結核感染に関する基本的事項
1-1 感染経路
1-2 結核感染の危険性
1-2-1 感染源
1-2-2 接触者
1-2-3 環境因子
2. 結核集団感染の定義
第2章: 定期外健康診断のフローチャート
第3章: 定期外健康診断ガイドライン
1. 初発患者調査
1-1 調査項目
1-2 定期外健康診断の要否の決定

2. 接触者検診
2-1 初発患者のランクの判定
2-1-1 接触者検診の重点
2-2 接触者のランクの判定
2-2-1 接触者検診実施の重点対象
2-3 対象者の範囲の決定
2-3-1 接触者検診の範囲の設定
2-3-2 初発患者の感染源
2-4 検診の方法と時期の決定
2-4-1 問診
2-4-2 ツ反応検査
2-4-3 胸部エックス線検査
2-4-4 喀痰の抗酸菌検査
2-5 検診結果の判定
2-5-1 ツ反応検査
2-5-2 胸部エックス線検査
2-6 事後措置の方法の決定
2-6-1 接触者検診の事後措置
2-6-2 最初のツ反応で感染ありとはいえない小児
2-6-3 最初のツ反応あるいは再ツ反応で感染が強く疑われる小児
2-6-4 発病者
2-6-5 追跡

3. 定期外集団検診
3-1 定期外集団検診の要否の検討
3-1-1 定期外集団検診の要否の決定
3-1-2 調査を必要とする対象者
3-2 初発患者についての検討会
3-2-1 定期外集団検診検討会の開催
3-2-2 定期外集団検診要否の判定
3-3 対策委員会の設置
3-3-1 対策委員会の設置
3-3-2 担当部局への報告
3-4 対象範囲の決定
3-5 検診の方法と時期の選択
3-5-1 既往歴調査
3-5-2 ツ反応検査の対象と判定
3-5-3 ツ反応成績の分析
3-5-4 胸部エックス線検査
3-6 対策委員会での検討
3-7 事後措置の方法の決定
3-7-1 追跡調査
3-8 報告、その他
3-8-1 集団感染事例の都道府県担当部局及び国への報告
3-8-2 結核菌株の保存
3-8-3 結核専門家の参画




第1章:結核感染についての基礎知識



1.結核感染に関する基本的事項

1−1 感染経路

 結核感染のほとんど全てが、肺結核患者が咳をするときなどに飛散する飛沫の中にある結核菌(飛沫核)を吸入することによって起こる。
 汚染した牛乳による牛型菌感染は戦後は我が国では報告されていない。外傷のある皮膚からの感染は極く稀に医療従事者にみられ、妊娠末期の母親が結核菌の血行散布を起こした場合には子宮内感染(先天性結核)が起こり得るが、何れも例外的なことである。喉頭結核を除く肺外結核患者が感染源となることはほとんどない。

1−2 結核感染の危険性

 結核感染の危険の程度は、感染源、接触者、環境の状況によって種々であるが、未感染の接触者が吸い込む空気中の結核菌を含む飛沫核の密度と時間によって決定される。接触者検診の重点対象をきめる上でこれらの危険因子についての理解は重要である。
 結核患者の届出を受けたら、接触者検診の適切な実施のために、次に示す事項を考慮しながら必要な情報を集める。

1−2−1 感染源

 結核菌を含む飛沫を飛散させる結核患者は誰でも感染源となり得る。感染の危険の程度は、患者が飛散する結核菌を含む飛沫核の量によって決定されるが、これに影響する重要な因子は次のとおりである。

(1)暗痰塗抹検査の結果
 喀痰塗抹検査の結果が陽性の場合には、普通、喀痰1::に7,OOO個以上の結核菌が含まれるといわれており、塗抹陽性の場合には感染の危険性が高い。
(注1)ガフキーI号、あるいは全視野で2〜3個以下の抗酸菌が陽性の場合には、食物残渣などが抗酸菌染色で染色されている場合もあるので、再検査を指示するとよい。再検査は通常2回以上行われるが、再検査の結果、連続して2回とも塗抹陰性ならば、陰性とみなしてよい。

(注2)気管支洗浄液、胃液などを検体としている場合には、遠沈後の沈渣について塗抹検査を行っているので、たとえ陽性の場合でも感染源としての意義は小さい。この場合には、喀痰検査の成績を別途照会する。
 なお、非定型抗酸菌が内視鏡等に付着し、検査のたびに少数の菌が認められることがあるので、同一器具による検査で、微量菌が続いて認められる場合には、注意が必要である。
(2)咳の程度と期間
 咳は飛沫の数を著しく増加させるので、激しい咳を長期間(例えば、3か月以上)続けている患者は感染源となる危険性が高い。
(3)有効な治療の有無
 有効な抗結核治療を行えば、喀痰中の結核菌の数と咳の回数が速やかに減少するので、感染源としての危険性は急速に低くなる。従って、未治療の患者が危険である。
(4)培養検査の結果
 塗抹検査が適切に行われていれば、塗抹陰性で培養のみ陽性の患者は感染源としての危険性が塗抹陽性患者よりずっと低い。
(5)その他の因子
 上記の他に次の因子が感染源の危険性に影響する。
@ 咳をする時に口をハンカチなどで覆うか否か。
A 歌ったり、大声を上げたりすると飛沫の数が増える。


1−2−2 接触者

 感染源の咳が出現してから後に接触のあった人は、誰でも感染を受ける危険がある。感染の危険性に影響する主な因子は次のとおりである。

(1)結核未感染者
 結核の再感染は起こり得るが、極めて稀であると考えてよい。従って、感染を受ける人は未感染者が大部分である。BCG既接種者のツベルクリン反応(以下「ツ反応」という。)は、しばしば陽性あるいは疑陽性であるが、結核未感染であれば、感染を受ける可能性があることはいうまでもない。
(2)感染源との近い距離での接触
 結核菌を含む飛沫核は急速に広い範囲に拡散するので、離れた距離での接触でも感染を受けることはあるが、飛沫核の密度歩低いので感染の危険性は低い。会話をする程度の距離の接触があった場合に危険が大きい。
(3)接触の期間
 ほんの僅かな時間、1回のみの接触で感染を受けることもあり得るが、接触の時間が長く、回数が多いほど危険である。


1−2−3 環境因子

 環境因子は、飛沫核の濃度に影響を与えるので感染の危険性に影響する。

(1)接触のあった部屋の大きさ
狭い部屋ほど危険である。
(2)換気
換気を行えば飛沫核の濃度は薄められる。
(3)再循環
ビルディング、病院、船舶などで換気を再循環式で行えば、飛沫核の一部が再循環することとなるので危険性が大きくなる。
(4)フィルター、紫外線照射
これらの措置は、感染防止に有効である。


2.結核集団感染の定義

 同一の感染源が、2家族以上にまたがり、20人以上に結核を感染させた場合をいう。ただし、発病者1人は6人が感染したものとして感染者数を計算する。

(注1)BCG接種率が高い我が国では、感染者数を正確に把握することは極めて難しい が、えば定期外検診の結果、化学予防を指示された者は感染者として数える。
 また「発病者1・人」を感染者6人とみなすのは、感染後1年以内の発病率は高くみて16%であり、実際には、さらに低いと考えられるので、1人の発病者があれば少なくとも6人の感染者が背後にいるはずであるという推定に基づく。

(注2)感染者が20人に満たなくても「1人の感染源が、2家族以上にまたがり5人以上に感染させ、あるいは2人以上が発病した場合」を「小規模感染」と呼び、対応に手抜かりがないようにしようという考えもある。この場合、「結核集団感染」の定義はそのままとし、必要に応じて「小規模感染」を別に扱う右がよいだろう。




第2章:定期外健康診断のフローチャート





第3章:定期外健康診断ガイドライン



1.初発患者調査
1−1調査項目
 初発患者調査は、定期外健康診断実施の異否及び、もし必要な場合にはその範囲と時期を決めるうえで極めて重要な調査である。量も重要な調査項目は、
@ 化学療法開始前の喀痰塗抹検査成績
A 呼吸器症状、特に咳の出現時期
B それ以後診断までの社会的活動
の3項目である。

 調査票の1例を示すと表1のとおりである。記入にあたって特に留意すべきことは、症状・排菌状況については、できるだけ届出医療機関で記入してもらうこと、発見時の喀痰検査を3回実施することを徹底させることである。

1−2 定期外健康診断の要否の決定
 定期外健康診断の要否、方法は以下のガイドラインに従う。若年者、特に乳幼児、学童・生徒等多数と接触のある結核患者め発生属を受理した場合、及び同一集団から2人以上の結核患者の発生届を受理した場合は、定期外集団検診の要否を検討する。

表1 新規登録患者調査票

2.接触者検診

2−1初発患者のランクの判定
2−1−1 接触者検診の重点
 化学療法開始前の喀痰塗抹検査成績が重点決定のための最も重要な資料になるので、3回の喀痰検査成績を全て集めるようにする。また、咳の程度とその持続期間も感染の危険性決定には重要なので、患者あるいは家族との面接時には必ず聴取する。
 これらの成績に基づき患者のランクを決定する。患者のランクの決定方法は、化学療法開始前のガフキー号数に咳の期間を乗じて、感染危険度の指数をみる方法である。
 この場合、化学療法前3回(少なくとも2回)の暗痰検査の成績をすべて集め、その中の最高号数に咳の持続期間(月数)を乗じて指数を計算する。

感染危険度指数=最大ガフキー号数X咳の持続期間(月単位)
重要度の判定
重要度感染危険度指数
最重要10以上
重要0.1〜9.9
その他0及び肺外結核

 例えば化学療法開始前の塗抹検査成績が、ガフキーU号、ガフキーX号、ガフキーV号、で2.5か月咳を訴えていたとすれば、指数は5x2.5=12.5となる。
 上表のように、指数の値が10以上ならば、周囲への感染の危険が極めて大きいので、接触者検診の重要度は「最重要」となる。
 指数の値が0.1〜9.9ならば「重要」とする。
 指数の値が0ならば重要度は高くなく「その他」とする。
 肺外結核(喉頭結核を除く)は、「その他」とする。

(注1)喀痰塗抹検査成績は、検体の良否、検査技術の優劣によって大きく影響される。また、最近では抗酸菌陽性例が少なくなったための精度の低下も報告されている。成績の解釈に当たっては注意が必要である。
(注2)塗抹検査成績がガフキー号数によらず、(+)、(”)、(”)で報告された場合には、それぞれ、ガフキ−T号、ガフキーX号あるいはガフキー\号と読み替えて指数を計算する。ガフキー号数と簡便法の蔵量の対照は、次頁の表に示してある。蛍光法による場合は200倍拡大による検鏡所見を準用する。
(注3) 化学療法開始前3回の喀痰塗抹成績の情報が得られない場合には、次の簡便法を用いるのもやむを得ない。
「最重要」:1回の塗抹検査成績がガフキーV号以上又はエックス線所見が学 会分類T型又はU型で拡がり3以上。
「重要」:@ 1回の塗抹検査成績がガフキーT号又はU号。
A 塗抹陰性であってもエックス線所見が、学会U型で拡がり1あるいは2であるもの。
B 喀疲塗抹検査陰性で培養陽性と判明したもの。
「その他」:上記以外を「その他」とする。


菌数( )内ブラウンによる変法 ガフスキー号数 簡略な表示
全視野に            1〜  4
数視野に              1
一視野に(平均)          1
一視野に(平均)        2〜  3
一視野に(平均)        4〜  6
一視野に(平均)        7〜 12
一視野に(平均)やや多数  (13〜 25)
一視野に(平均)多数    (26〜 50)
一視野に(平均)はなはだ多数(51〜100)
一視野に(平均)無数    (101以上)
T
U
V
W
X
Y
Z
[
\
]

少数


中等数(〃)



多数(〃)



2−2 接触者のランクの判定

2−2−1 接触者検診実施の重点対象
 接触者検診は感染を受けた確率が最も高い者から順に行う。
 感染を受けた確率が最も高いのは普通は家族であるが、状況により種々なので、初発患者が咳を訴えるようになった後の接触状況に応じて重点を決める。
 接触者は「家族」、「濃厚接触者」及び「その他の接触者」の3群に分けられる。

「家族」とは、
@ 同一家屋又はマンション、アパートなどの同一区画で生活を共にしている者。
A 祖父母と孫で互いに行き来をしている者。この場合には同一場所に住んでいない場合でも家族とみなす。また、初発患者の届出時には別居していても、初発患者の呼吸器症状出現後に会合、同居していた者は対象に含める。 B単身者で友人などと同居している場合、これら同居者はいわゆる「家族」とは異なるが、接触者検診の対象としては「家族」と同様に扱うこと。

「濃厚接触者」とは、
家族ではないが、仕事、余暇、その他での接触が特に密接だった者、例えば、しばしば食事を共にしていた友人、個人企業で家族同様に働いていた人、職場で特に接触が密だった人など。

「その他の接触者」とは、
密接な接触があったとは考え難いが、ある程度の接触のあった者、例えば、マンション、アパートなどの共有区画で会うと挨拶を交し、時に会話をするというような人など。

2−3 対象者の範囲の決定
2−3−1 接触者検診の範囲の設定

 感染を受けている確率は「家族」が最も高いのが普通である。感染の確率が高いと考えられる人の最初の検診の結果を検討すれば、初発患者の実際の感染性の大きさを推定することができる。接触者検診の範囲の設定は次のように考えればよい。

(1)家 族

(2)初発患者との接触者で感染を心配して自ら保健所などに来所し検診を求めた人
 これらの検診で患者が発見されず、感染疑いの例がなければ、接触者検診の範囲はこれ以上拡げない。上記の(1)又は(2)で感染者あるいは発病者が発見されれば(感染者あるいは発病者か否かの判定は後述の接触者検診2-5による)、検診の範囲を「濃厚接触者」に拡げる必要がある。これで感染者あるいは発病者がなければ接触者検診の範囲はこれ以上拡げない。もし、感染者あるいは発病者があれば、検診の範囲を拡げる必要があるか否か検討を行う。

2−3−2 初発患者の感染源
 通常の意味での接触者検診とは異なるが、29歳以下の若年老又は小児の結核患者の届出があった場合には、この初発患者が最近周囲の人から感染を受けた可能性が高いので、初発患者の感染源を探すために定期外検診を行うことが必要である。



2−4 検診の方法と時期の決定

 接触者検診に当たっては、次の項目について問診及び検査を行う。

2−4−1 問診
 結核の既往・BCG接種歴、分かっていれば既往のツ反応結果、最近の呼吸器症状などを問診する。

2−4−2 ツ反応検査

 ツ反応検査は初発患者の感染源としての危険性の度合いと接触者の年齢(原則として29歳以下に行う。)に応じて実施の対象と時期を決める。我が国では、BCG接種率が高いのでツ反応結果の解釈は軍難なことが多く、とりわけ高校生以上の年齢の者ではツ反応成績の解釈が困難なことが多いので、この年齢ではツ反応検査を行うか否か実情に応じて決めることとなる。
 接触者の種類別には、常に「家族」で先に行い、この結果、必要と認めた時のみ、他の接触者にツ反応対象者を拡げることとする。
 ツ反応検査実施の時期は表2のとおりである。

2−4−3 胸部エックス線検査

 BCG既接種者では、結核感染を受けても、胸部エックス線検査で最初に発病が認められるのは感染後5か月以後が大部分であるが、BCG未接種者では2か月後(ツ反応陽転と同時)に陰影が認められることがあり、免疫不全者ではさらに早いと報告されている。また、初発患者の感染源の発見にも努めなければならない。このため、最初のエックス線検査は、初発患者の届出後の早い時期(遅くとも2か月以内)に家族に行い必要に応じて対象を他に拡げる。
 発病は、感染後6〜12か月に起こることが最も多いので、このことを考慮して2回目以降の検診の時期を決定する。2回目(初発患者の登録後8〜14か月)の検診は家族全員とする。ただし、接触者検診のツ反応で感染が否定された小児は、それ以後のエックス線検査は不要である(感染したか否か不明の者は念のためエックス線検査の対象に含める)。表2を参考にしてエックス線検査の実施時期を決める。
 なお、初発患者の登録が死亡などによって削除されていても、家族などのエックス線検査は表2によって実施すること。

2−4−4 喀痰の抗酸菌検査

結核を疑わせる陰影を認めた者は勿論、異常影が疑われる者には、喀痰の結核菌検査を行う。

表2 挿入位置


2−5 検診結果の判定

2−5−1 ツ反応検査

 BCG既接種者では判定が難しいことが多いが、中学生以下の者ではョの適用基準が感染の有無の推定に参考になろう。

参考
(注1)小児・若年者の結核発病は、感染後5か月〜18か月の問に起こることが最も多い。従って、最近1年半くらいの間に接触のあった人で、排菌陽性・有症状の患者が感染源だった可能性が最も高い。小児結核では家族内に感染源が発見される場合が多い。高校生以上では、感染源が発見される可能性は低 くなるが、患者又は家族と面接する場合には、このことも考慮しながら問診を行うことが重要である。
 0〜14歳の小児が感染源となり家族などが感染することは極めて稀なので、感染源追及のためのエックス線検査対象には、小児は普通含めないでよい。
 小児についてのエックス線検査の時期は表2のとおりである。
ョの適用基準
塗抹陽性患者との接触 BCG未接種BCG既接種
あ  りツ反応発赤10mm以上ツ反応発赤30mm以上
かつ最近の結核感染が強く疑われる場合
な  しツ反応発赤30mm以上
(再検査では20mm以上)
ツ反応発赤40mm以上

引用:平成元年2月28目健医発第20号結核・感染症対策室長通知「初感染結核に対するINHの投与について」より

(注)高校生以上の者では0の適用基準は現在、十分に明らかとはいえない。しかし、ツ反応で水痘、壊死又は出血の副反応がみられる者は、少なくともョの対象に含めること。

2−5−2 胸部エックス線検査
 エックス線検査の対象範囲及び時期は既に述べたとおりである。エックス線写真の読影・特に小児のエックス線写真の読影は難しいことが多いので、判断に迷う場合には2人の医師による二重論影、あるいは、結核診査協議会での協議等によって慎重に行うことが望まれる。

2−6 事後措置の方法の決定
2−6−1 接触者検診の事後措置
我が国では、BCG接種率が高いので、ツ反応による感染の有無は・BCG接種の有無、BCG接種からの期間、ツ反応の大きさ・前回のツ反応の時期と成績・最終BCG接種から今回のツ反応検査までの期間、感染源の排菌状況・感染源との接触状況など多くの因子を考えながら決めなければならない。
2−6−2 最初のツ反応で感染ありとはいえない小児
 初発患者の后出後1か月以内に行ったツ反応検査で、BCG歴なしでツ反応陰性又は疑陽性、あるいは、BCG歴ありでツ反応の発赤長径の大きさが29ミリ以下で感染ありと積極的には判断できない小児に対しては、初発患者の排菌状況などを勘案して措置を決める。
 例えば、BCG未接種の乳幼児が、「2-1」の区分で「最重要」とされる初発患者と接触している場合には、ツ反応が陰性、でも化学予防を開始することができる。
 その場合には、2か月後に再ツ反応の上、感染が疑われればそのまま化学予防を継続する。(注)
 初発患者が「重要」又は「その他」と区分される場合には、すぐには化学予防を行わず、2か月後の再ツ反応まで様子を見るに止め、再ツ反応の結果に応じて化学予防の要否を決める。いずれの場合も、ツ反応が陽性なら胸部エックス線検査を行う。

 (注)BCG未接種の乳幼児に、化学予防を2か月間実施した後にツ反応を行い、陰性、疑陽性だった場合、化学予防は中止するが、すぐにBCGを接種することなく、さらに2か月後にツ反応検査を行った上で最終判断を行う方がよい。
 なぜなら、感染後、アレルギー前期の状態にある小児にINHを投与すると、結核菌は増殖せず、ツ反応も出現しないが、結核菌は完全には死滅せず、化学予防中止後に結核菌が増殖を始めて陽転することがあると報告されているからである。

2−6−3 最初のツ反応あるいは再ツ反応で感染が強く疑われる小児

 胸部エックス線検査を行い、異常がなければ化学予防となる。この場合、家族又は感染者とほぼ何等の接触者に15歳〜2.9歳の若年者がいれば、ツ反応検査を行うことが勧められる。

2−6−4 発病者

 化学療法の対象となることはいうまでもない。接触者検診で発病者が発見された場合には、初発患者が接触者に感染を起こしたことがほぼ確実となるので、接触者検診の対象が適切であったか否か、さらに範囲を拡げないでよいか否かを、再検討することが望まれる。

2−6−5 追跡
 表 2に示した検診は最低必要な検診であり必ず行う。初発患者が「2-1」で「最重要」又は「重要」とされた場合には、登録時の検診で、感染が否定された者以外は全員、初発患者登録の8〜14か月後に第2回目の胸部エックス線検査を必ず行う。
 また、初発患者が「2-1」で「最重要」とされた場合には登録後15〜24か月後に第3回目の胸部エックス線検査も行う。
 この場合、初発患者が治療終了、死亡などで登録を削除されている場合にも接触者に対する検診は必ず行う。

3.定期外集団検診

3−1 定期外集団検診の要否の検討
3−1−1 定期外集団検診の要否の決定
 若年者、特に乳幼児、学童、生徒などの多数と接触のある結核患者の発生届を受理した場合、及び同一集団から2人以上の結核患者の発生届を受理した場合には、より詳しい情報を集め、定期外集団検診検討会を開催し、定期外集団検診の要否を決定する。

3−1−2 調査を必要とする対象者
教職員、保母、塾の職員など若年者と直接接触のある者が結核患者として届出られた場合
園児、学童、生徒、学生など若年者自身が結核患者(0を含む)となって届出られた場合
同一施設から短期間に2人以上の結核患者の届出があった場合

など、結核集団感染が疑われる場合には、初発患者についてより詳しい情報を集める。
 調査票の一例を示すと表3のとおりである。調査を要する主な場合を例示すると次のとおりである。

(1)児童、生徒、学生等
 保育所、幼稚園、小・中・高校、大学及び各種学校等の児童・生徒・学生などの結核患者が届出られた場合。

(2)いわゆるデインジャーグループ〔danger group〕
 結核発病率が特に高いわけではないが、万一発病した場合には、周囲の多くの未感染者に感染'させる恐れが高い職業あるいは一定のグルーブをデインジャーグループという。
主なものは次のとおりである。
@ 教職員:学校などの教職員・臨時職員を含む。
A 保健・医療従事者:特に乳幼児、小児と接触が多い場合。
B 障害者などの施設の職員:収容している人のケアのために密接な接触のある場合が少なくないので、収容者が成人であっても注意が必要である。
C 塾などの職員:学習塾、その他の教室の先生など。近年、学習塾等における結核集団感染事件が後を断たないという状況にあるので、注意が必要である。

(3) 同一集団から結核患者が2人以上登録された場合
 最近・中小雪紬企業などの事業所や、精神病院などでの結核集団感染事件がしばしば報告されている・100人未満の集団から1年以内の2人以上の結核患者が発生することは極めて稀なので、このような場合には集団感染を疑う必要がある。
 なお最近、老人ホームでの結核集団感染事例も報告されているので、老人の入所施設も無視できない。

(4) 特殊な結核が発生した場合
 中耳結核、骨・関節結核などの接種結核事例(何らかの原因によって、医療器具や注射用薬剤に結核菌が混入して発生したと考えられる)は極めて稀であるが、気付くのが遅いと重大な結果となるので注意が必要である。

表3 挿入位置

3−2 初発患者についての検討会
3−2−1 定期外集団検診検討会の開催
 初発患者の調査が完了、あるいは概ね完了した時点で、保健所長は、所長以外の保健所医師、結核対策所管の課長、担当保健婦など内部の関係者と定期外健康診断の要否について検討会を行うことが望まれる。この検討会には、必要に応じ外部の専門家を含めてもよい。
 例えば、小学生の結核患者が発生しても、喀痰塗抹検査成績が3回とも陰性、胸部エックス線所見はrV1、軽い咳が1週というような状況であることが確認できた場合、この患者の感染源の探求及び家族検診は必要であるが(接触者検診)、学校の児童などを対象とした定期外集団検診は不要である。
 定期外集団検診の要否に関しては、結核の感染、発病についての正しい認識に基づいて判断を行うことが重要であり、必要に応じて外部の専門家の意見を聴取すること。
 この検討会の討議の内容、結果は、簡単に記載し、調査票と一緒に保存すること。
 表3に示したように、検討会の内容、結果を調査票の一部に記入できるようにしておくと便利である。調査票、検討会の討議の内容、結果を記入した用紙の写しは、定期外集団検診を行わないことと決めた事例も含めて、5日以内に都道府県・指定都市等の担当部局長あて送付のこと。

3−2−2 定期外集団検診要否の判定

 定期外集団検診の要否は初発患者の排菌状況、咳の期間、被曝露集団の性質などを勘案して決める。
 接触者検診の2-1-1(8頁)に記した感染危険度指数が10以上なら原則として集団検診が必要、O.1〜9.9の場合も概ね必要であるが、Oの場合には被曝露集団が未熟児、新生児、抵抗力の弱い人々の集団などの場合を除いて、集団検診は不要である。表4に原則的な考え方を示したが、要検討又は不要とされた場合でも、被曝露集団に発病者がみられる場合などには、定期外集団検診が必要である。

表4 定期外集団検診要否決定の考え方
 
感染危険度指数 被 曝 露 集団
新生児など小・中学生など 高・大学生 左記以外の年齢
10以上 必 要 必 要 必 要 必 要
0.1〜9.9 必 要 必 要 必 要 要検討
0.1〜9.9 要検討 不 要 不 要 不 要

 表4には原則的な考え方を示したが、要検討又は不要とされている場合でも、被曝露集団に発病者がみられる場合などには、定期外集団検診が必要となる。学習塾、予備校等の場合においては、被曝露集団の属する年齢を考慮し、表4を適用する。


3−3 対策委員会の設置

3−3−1 対策委員会の設置
 検討会の結果、結核集団感染の可能性ありと考えられ、定期外集団検診を行うことと決定した場合には、保健所の担当者のほか、学校では学校長、学校医、養護教論など、事業所では事業主、産業医、衛生管理者など集団側の責任者の参加を求め、対策委員会を設置する。必要に応じ、都道府県の担当者あるいは外部の専門家にも参加を求める。
 対策委員会では、定期外集団検診の必要性、内容、検診後の措置、その他を詳しく説明して意見を求め、定期外集団検診の円滑な実施と、被検者やその父母の不安の軽減に努める。
 なお、対策委員会で最も大切なことは、二次患者の発生防止と発生した場合の早期 の発見である。初発患者の人権にも十分留意しながら対策を検討することが望まれる。

3−3−2 担当部局への報告

 検討会の結果、結核集団感染を疑って定期外集団検診を実施することと決定した場合には、直ちに市区町村教育委員会あるいは労働基準局など施設を所管している行政担当部局に、その概要の報告を行うこと。

3−4 対象範囲の決定

 定期外集団検診の対象は、初発患者が咳を訴え始めてから接触のあった者となる。ただし、ここでいう「接触あり」とは、会った時に互いに会話を交わす程度以上の接触のあることをいう。どの程度の接触か不明のときには「接触あり」とする。
 検診成績の分析にあたっては、「A接触あり、かなり密接な接触群』、「B接触あり」、「C僅かな接触あり」の3群に分けて集計するとよい。

3−5 検診の方法と時期の選択

3−5−1 既往歴調査

 小・中学生などでは、既往のツ反応成績、BCG接種状況は、今回のツ反応成績の解釈に極めて重要な資料となるのでできるだけ把握に努める。

3−5−2 ツ反応検査の対象と判定

 BCG既接種者ではツ反応で感染の有無を判定することは個人では不可能であるが、集団にツ反応検査を行い、その分析を行えば、集団感染の有無の判断ができる場合が少なくない。
 また、感染者に化学予防を行えば、その後の発病を50%以上減らすことができ、この効果はおそらく一生持続するといわれている。従って、発病者がみられる場合には勿論、発病者がなくても結核感染危険指数が20以上の場合には、大学生あるいは成人でも29歳以下の接触者にはツ反応検査がすすめられる。

(注1)結核.集団感染が疑われる場合には、化学療法開始前の喀痰塗抹検査の結果を3回とも入手し、「2-1」に記した方法により感染危険度指数を算出して対応を決めるとよい。接触者が高校生以下の場合には、次の表を参考にして定期外集団検診実施の時期を決める。ツ反応成績の解釈は難しい場合が少なくないので、僅かな接触のあった者もツ反応対象者に加えておき、このツ反応成績と、接触が密だった者のツ反応成績を比較すると、成績の解釈が容易になる。


結核集団感染を疑ってツ反応検査を行うべき時期の概略
(高校生以下の場合)
指  数*直後の反応2ヶ月後のツ反応
不  要その他の条件を考えて実施の要否を判定
0.1〜9.9大部分は不要実施が望まれる
10〜実  施必ず実施
20〜必ず実施必ず実施
* 指数=(ガフキー号数)X(咳の持続期間)   

(注2)ツ反応検査の結果は、結核予防法では発赤長径と判定結果((一)、(±)、(十)、(”)、(”))及び二重発赤、水泡、壊死の有無を記載することとなっているが、集団感染が疑われてツ反応検査を行う場合には結果の詳しい分析が必要なので、結核予防法による記載に加えて

硬結の大きさ○X○
−−−−−−−−−(二重発赤の大きさ○X○)(水泡、壊死、出血)
発赤の大きさ○X○


と、それぞれの大きさを数字で記載しておくことが望まれる。


3−5−3 ツ反応成績の分析

(1)ツ反応成績を分析する場合には、

@ BCG接種歴
A 小学1隼及び中学1年時のツ反応検査の有無とその成績
B 今回の初発患者隔離直後のツ反応成績
C 2か月後のツ反応成績

を考慮しながら分析し、あるいは接触状況別に分析することになるので、例えば、表5に示した様式を用いて整理しておくことが重要である。

(2)ツ反応成績の解釈にあたっては、

@ツ反応発赤径の大きさ別度数分布(図1)を作り、さらに可能なら
A前回のツ反応の大きさと、今回のツ反応の大きさの相関図(図2)を作って分析するとよい。

 @では双峰性分布がみられるか否かを検討し、双峰性分布がみられれば、集団感染の可能性が大きい。
 Aでは、前回のツ反応と今回のツ反応の大きさの差が20o以上で、かつ、今回30o以上の発赤を示す者は、感染を受けた可能性が高い。
 これらは、ツ反応検査実施者総数で分析するだけでなく、接触状況(3-4で示したA,B,C群など)、学級別などに分けて分析すると、結果はなお明瞭になる。

図1 接触者と被接触者のツ反応発赤径分布(高校生)
図2 中学1年生時ツ反応長径の比較


表5 園児・児童・生徒の検診結果一覧表



3−5−4 胸部エックス線検査

 最初の定期外検診の際には、ツ反応の結果、結核感染が疑われ化学予防が指示された者は勿論、化学予防の対象には含めなかったが感染の疑いを捨てきれない者も含め、ツ反応発赤長径が10om以上の者全貝を胸部エックス線検査の対象とする。
 ツ反応検査を行わなかった場合には、接触者全員を対象とする。
 BCG既接種者では、感染後2か月からみられる肺門リンパ節腫脹はほとんど認められず、4か月頃から発生する結核性髄膜炎や粟粒結核もほとんどみられない。故に、胸部エックス線写真で最初に発見される異常は、感染の約6か月後から認められる結核性胸膜炎あるいは肺結核症が殆どである。従って、初発患者の発見後6〜12か月の胸部エックス線検査が極めて重要となる。

(注1)BCG接種を行っていない者ではツ反応の陽転と同時(つまり感染後2か月以内)に初感原発巣あるいは肺門リンパ節腫脹、またはその両者が認められる場合が少なくなく、結核性髄膜炎は感染後4か月くらいからみられるので注意が必要である。
 また、細胞性免疫不全がある者では感染後極めて短時間に重篤な形で発病することがあるので、特に注意が必要である。
(注2)胸部エックス線写真の読影は難しいことが少なくなく、特に小児では難しいことが多いので、2人以上の医師が共同で判定することが望まれる。判断し難い例では、再撮影、斜位撮影などを行い、あるいは断層撮影を行って、判定を行い、「要観察」として判断を保留するケースはできるだけ少なくすること。


3−6 対策委員会での検討

 エックス線検査の結果、要医療とされた者及びツ反応検査の結果、”が指示された者が何人認められたかを、例えば学級別、接触状況別などに整理して対策委員会に報告する。委員会では検診の範囲と時期が適切であったか否かを検討する。

 検診の範囲を、これ以上拡げる必要がなく、当面の検診を追加する必要がないと認められれば、今回の集団感染の有無を最終的に判定する。
 もし、集団感染ありとされた場合には、感染の時期と範囲の推定を行い、今後の防止案について検討する。
 その上で、次回の検診の時期、範囲について勧告を行う。

3−7事後措置の方法の決定

3−7−1 追跡調査

 結核発病は感染の一定期間後に起こることが大部分なので、感染を受けた者、感染の疑いがある者については、初発患者隔離の8〜12か月後に再び胸部エックス線検査を行う。
 2か月後のツ反応検査で、感染をほぼ否定できた者以外はエックス線検査の対象に含めること。
 1年後までに発病者が1人も認められなければ、その後の発病者はみられないことが多い。発病者が認められた場合には2年後の検査も行うことが望まれる。
 なお、有症状時の受診が大切なことは、最初から十分徹底しておくこと。

3−8 報告、その他

3−8−1 集団感染事例の都道府県担当部局及び国への報告
 定期外健康診断(結核集団感染対策)を行った場合には、初発患者発見2か月後までの検診が終了した時点で、この簡単な内容を表6(記入例は表7に示す。)にまとめ都道府県・政令市担当部局に報告すること。
 都道府県・政令市の担当部局は、最初に示した集団感染の定義に相当する事例については、必要な成績を保健所長に求め、その概要を表8にまとめ、表6及び事例の具体的内容が分かる資料を添付'して、厚生省保健医療局結核・感染症対策室宛に送付すること。

3−8−2 結核菌株の保存

 初発患者の結核菌株および、その後に発生した患者から分離された結核菌株は後で分析が必要になることもあるので保存しておくことが望ましい。

3−8−3 結核専門家の参画

 結核集団感染対策について習熟した専門家の数は少なくなっているので、都道府県レベルで人材を登録しておき。必要に応じて集団感染対策助言チームを組織し派遣するなど、都道府県担当部局が積極的に支援を行うことが望ましい。



表6 定期外健診(集団感染対策)実施状況

表7 記入例: 定期外健診(集団感染対策)実施状況

表8 結核集団感染発生事例について(書式)



戻る:結核定期外健康診断ガイドラインの目次