参考資料





結核の院内感染防止マニュアル
資料1 核酸増幅法による結核菌検査の臨床での利用について
(日本結核病学会予防・治療合同委員会、結核Vo1.70.No.12:711-7I2.1995)
資料2 様式:結核患者届出票(結核予防法第22条に基づく)
資料3 様式:入院結核患者届出票(結核予防法第23条に基づく)
資料4 様式:結核医療費公費負担申請書
資料5医療関係者の結核予防対策について
(日本結核病学会予防委員会、結核Vo1.68,No11:731-733.1993)
資料6 結核の院内感染対策について
(日本結核病学会予防委員会、結核Vo1.73,No.2:95-100.1998)
資料7 結核の集団感染防止対策について(通知)
(健医感発第9号、平成9年1月31日)
資料8 結核定期外健康診断ガイドライン
(厚生省保健医療局結核・感染症対策室)
(平成4年12月8日健医感発第68号の別紙2)







資料1

Kekkaku Vol.70,No.12
711



核酸増幅法による結核菌検査の臨床での利用について



平成7年9月20日
日本結核病学会予防・治療合同委員会
日本結核病学会予防委員会委員
委貫長 森 亨佐藤博、前田秀雄
委員久世 彰彦、荒川正昭、 五十星明
山岸文雄、倉岡敏彦、 津田富康
門政男、
日本結核病学会治療委員会
委員長近藤有好
委員岸不盡彌、渡辺形、佐藤紘二
和田雅子、来生哲、高嶋哲也
鎌田達、古賀宏延


 近年開発された核酸増幅を原理とする結核菌の検出技術については、既にこれを応用したキットが2種類商品化され、これらが日本では健康保険での使用も認可され、まさに実用段階に入っている。この方法は内外での試用経験から、従来の培養と比較し得る菌の検出能力(感度)をもち。しかも所用時間が数時問という利点をもっていることが示されている1)〜3)。これから、この方法は結核菌の迅速検出法として、結核の診断に大きな期待がもたれているところである。
 しかし、この方法の安易な利用には問題がある。その最大の問題は特異度、つまり偽の陽性にかかるものである。これまでの試用の報告ではこの点について厳密な吟味は行われていない。これまでの報告のようにかりに従来の培養法を基準法とみなして特異度(確立された従来の基準で陰性の検体のうち本法でも陰性のものの割合)をみると、未治療患者からの検体では、ある方法1)3)では94〜95%であった、治療中の患者の検体については、このように定義した特異度は70%前後になる3)、このように特異度が低いことの一部は、この方法が培養法よりも感度が高い(例えば死菌まで検出してしまうなど)ためであり、絶対基準の設定に問題があると考えられている。
 しかし最近阿部らの行った多施設共同研究4)では、絶対的な陰性検体(超純水)をこの方法で検査施設に検査させたところ、のべ90件中5件が陽性と判定された。ある検査施設はそうした15検体のうち3検査体を陽性と報告している。これは、現在の核酸増幅による結核菌検出法には偽の陽性の事例が皆無でないことを示している。
 核酸増幅法による偽の陽性の重要な原因として検査過程中の汚染が考えられており、これを排除するための精度管理が検査施設では行われているはずである。しかしこれも完壁なものといえないことが上記の報告で示されている、さらに検体採取過程の汚染(最も問題になるのが気管支内視鏡検査であろう)についてはいまだ十分な検討が行われているとはいえない。
 偽の陰性に関しては患者検体中に存在するポリメラーゼ酵素の阻害物質によるものが問題になる。今のところ研究は十分に行われておらず、今後さらに検討を加えなけれぱならない。
 一方、上記の試用で明らかにされたように3)、治療中の患者の検体の検査における特異度の低さにみられる偽の陽性は、そのかなりのものが培養法で発育しない菌(いわゆる死菌など)の検出によると考えられる。したがって従来の培養法の所見に基づいて確立されてきた治療経過の判定(例えば入院患者の退院時期の決定など)に関して、この新しい方法は従来法と同等の意義をもっとはいえないことも考えなければならない。この検査で菌陰性になるのを待って退院時期を決定するようなことをすれぱ、入院期間が必要以上に長くなるようなことも起き得る。
 結核診断における核酸増幅法の信頼性について論議したGrossetら5)は、この方法の潜在的な能力に期待しつつも、現時点では「結核治療の開始にも、中止に用いるべきではない」と断定している、またおそらく同様の根拠から米国では連邦政府が現時点でその一般的な使用を認可していない。当委員会はこのような事情について検討を行い、現在行われている核酸増幅法による結核菌検査の利用にあたっては、以下のような点を慎重に考慮すべきであると結論に達し、これについて勧告を行うこととした、これによってこの方法の利益が最大限のものになることを期待したい。
 なお、本検査法で非定型抗酸菌を検出するキットもあるが、これによる所見に基づいた非定型抗酸菌症の定義はいまだ確立されていないこと、また環境中の非定型抗酸菌により偽の陽性が出る可能性の大きいこと(本学会予防委員会声明「結核1994.69535-536」参照)に十分留意すべきである。



核酸増幅法による結核菌検査の利用に際しての留意点(勧告)



1)核酸増幅法による結核菌の検査法(以下「本検査法」という)を用いて結核菌の検出を行う場合には、必ず塗抹検査および培養検査を並行して行うこと。
2)結核疑いの患者の検査で在来の菌検査法の所見が陰性で、本検査法のみで陽性の場合には、つねに偽の陽性の可能性を考慮し、臨床所見やエックス線所見などを併せた総合的な検討を慎重に行って判断すること。
3)結核の治療中の経過判定のために本検査法を用いないこと。ただし重大な悪化や再発を思わせる臨床的な変化があるような場合は2)に準じること。
4)気管支内視鏡検査など、検査材料の採取に用いる器具が以前の検査で結核菌成分により汚染される可能性があるような場合には、本検査法による結核菌陽性所見の解釈は慎重に行うこと。
5)あらゆる段階での検査精度の確保に努めること。検査の実施を外部施設に委託する場合にも疑わしい結果については施設担当者と十分な検討を行うなど、施設での精度管理にも注意すること。


文献
1)Abe C,Hirano K,Wada M,et a1.:Detection of "Mycobacterium tuberculosis in clinical specimens by po1ymerase chain reaction and Gen-Probe Amplified Mycobacterium Tuberculosis Direct Test J Clin Microbiol. 1993;31: 3270-3274.
2)青柳昭雄、豊田丈夫、大角光彦、他: 核酸(rRNA)増幅を応用した結核菌直接検査法 (Gen-Probe, MTD)の臨床的検討−小川培地と液体培地(MBチェック)との比較を中心と して−. 結核. 1994;69:7-14.
3)青木正和、片山 透、山岸文雄、他;PCR法を利用した抗酸菌DNA検出キット(アンプ リコアTMマイコバクテリウム)による臨床材料からの抗酸菌迅速検出. 結核. 1994;69:593-605.
4)阿部千代冶、森 亨、藤井英治、他:結核菌の迅速検出のためのMTDの評価に関する共同研究. 結核.1995;70:467-472.
5)Grosset J, Mouton Y:Is PCR a useful too1 for the diagnosis of tuberculosis in 1995. Tubercle and Lung Disease 1995; 76:183-184.







資料2 結核患者届出票(結核予防法第22条に基づく)
資料3 入院結核患者届出票(結核予防法第23条に基づく)
資料4 結核医療費公費負担申請書





資料5

Kekkaku Vol.68,No.11
731

医療関係者の結核予防対策について



日本結核病学会予防委員会


 近年、医療関係者の結核感染・発病のリスクが一般住民のそれよりも高いことが知 られるようになってきた。これは若年者の中の未感染者の割合が増大したこととあい まって、結核の診断が遅れがちになっていること、重症で発病する結核患者が一向に 減らないこと、そして恐らくはBCG接種による免疫が不十分な者の割合が多くなって いることなどがその背景にあるものと考えられる。
 このように医療関係者は結核に感染し発病する危険が大きい一方、他に感染を及ぼ す恐れの大きい職種であることからも、その結核予防に関しては特別1の措置が講ぜ られるべきである、当委員会は関連する現状を分析した結果、今後の予防対策の指針 を示すこととした。

平成5年9月


日本結核病学会予防委員会
委員長 志 村 昭 光
委員荒 川 正 昭、 五 十 里 明、 石 橋 凡 雄,大 島 駿 作, 鎌 田 達, 久 世 彰 彦,佐 藤 博,*森  亨,柳 川  洋, (*印:前委員長)
前委員永 井 明 彦, 本 宮 雅 吉



1.対策の現状


 ここで対象とする「医療関係者」には医療に携わるすべての職種を含む。
 医療関係者には他の職種と区別される結核予防のための特別な法的な規制はなく、結核予防法に定められた以外の結核予防対策の実施は管理者の裁量にゆだねられている。その結果、医療関係者の入学時・採用時ならびに定期健康診断の実状は内容的にかなり不十分な施設の多いことが懸念される。
 また医療機関で結核患者が発生した場合、患者と濃密な接触があり感染の危険度が大きい職員に対しては当然なんらかの措置が必要であるが、定期外健康診断などの実施は十分なものとはいい難い。

2.勧告


(1)対策実施の義務と監督責任について
1.医療機関の管理者は、結核予防法及び労働安全衛生法などに基づく各種の健康診断の受診機会を確保し職員などの安全衛生管理の徹底を図らなければならない。
2.医療関係者養成施設(看護学校など)の管理者は、結核未感染者の増加に鑑み医療機関などでの実習前にツベルクリン反応検査及ぴBCG接種などの必要な措置を講じなければならない。
3.医療機関においては「結核感染防止委員会」(仮称)またはこれに相当する組織を設置し、結核感染の未然の防止と患者発生時の組織的な対応にあたることが望ましい。
4.保健所長は医療機関において結核患者が発生した際には、「結核定期外健康診断ガイドライン」に基づき適切な措置を講じなければならない。


(2)定期健康診断・予防接種
 医療機関などにあっては法令に基づく健康診断の確実な実施はもとより、結核の感染ならびに発病の防止の効果を一層確かなものにする方策を講ずへきである。

@医療関係者養成施設(看護学校など)
1.入学時に結核の既往歴ならびに過去における結核の定期及び定期外健康診断 と予防 接種の成績を把握する。
2.入学時の健康診断にはツベルクリン反応検査を実施し、その結果が陰性及ぴ 結核未感染と考えられる者にはBCG接種を行い翌年再度ツベルクリン反応検査を 行う。
3.入学時ならびに定期健康診断に際しては、年齢(19歳未満の者を含む)及びツ ベルクリン反応検査の成績にかかわらず胸部エックス線検査を実施する。
A医療機関
1.採用時に結核の既往歴ならびに過去における結核の定期及び定期外健康診断 と予防接種の成績を把握する。
2.雇入時の健康診断に際し30歳未滴の者にはツベルクリン反応検査を実施し、 その結果 が陰性及び疑陽性の場合は概ね2週間後に再度ツベルクリン反応検査を行い、再び陰性及ぴ結核未感染と考えられる者にはBCG接種をする。このときBCG 接種を受けた者には1年後にツベルクリン反応検査を実施する。 雇入時ならびに定期健康診断に際しては、法令の定めにより全員に胸部エックス 線検査を実施する。


(3)定期外健康診断
 医療関係者が結核を発病した場合、または受診中の患者が結核と診断され職員への感染の危険度が大きい場合は、管理者は所轄保健所へ通報するとともに院内に設置した結核感染防止委員会で検討に付する。
委員会は感染源の確認、未発見患者の追求、被感染者の発見、関連した情報の収集、今後の対策などについて検討するが感染源の人権とプライバシーに十分な配意を要する。
れらは保健所が「結核定期外健康診断ガイドライン」に基づいて行う一連の措置への積極的な協力の一環として行う。

(4)化学予防
1.30歳未満の者であって、入学時または採用時の胸部エックス線検査で陳旧性結核 の所見を認めかつ治療歴もしくは化学予防歴のない場合、及びツベルクリン反応検査の発赤経が40mm以上あり発病の危険が大きいと考えられる場合には必要により化学予防を行う。
2.医療機関での患者発生に際しての定期外健康診断で結核感染の疑いがある者には 年齢にかかわらず化学予防を実施することが望ましい。


(5)流行監視
1.結核感染防止委員会は、当該施設関係者の入学時、雇入時及び定期健康診断の 受診状況及び結果を毎年精査し院内感染の有無を判定する。
2.院内に結核感染を認めた場合は直ちに所轄保健所へ通報し、関係者に対し必要 な措置を行わなければならない。


3.その他


(1)医療機関内感染防止対策マニュアルの作成医療関係者の結核感染及び結核発病 の未然防止と集団感染防止の観点から、「感染防止対策マニュアル」の作成を本委員会においても検討する。
(2)結核菌検査などに関する感染防止
結核菌や結核菌を含む検体を扱う職員の感染防止については・設備・操作の面に関して日本 細菌学会及び日本病理学会の安全基準などを遵守する。
(3)医療関係者に対する啓発
都道府県は医師会などの協力を得て、結核対策特別促進事業などの活用を図ることにより、医療関係者に対する例えば次のような研修会などを実施する。


1. 医師に対する結核講演会の計画的な開催
 地区医師会単位の講演会、二次医療圏単位の講演会、県下全域の講演会
2. 医療関係職種に対する実務的研修会の計画的な開催
 検査技師の結核菌検査手法、看護婦・保健婦・衛生管理者などの結核関連研修

                                 以上






資料6


Kekkaku Vol.173,No2:95-100.1998

結核の院内感染対策について



日本結核病学会予防委員会


 医療関係者は予期せぬ結核患者と接触することがあるため結核に感染し発病する危険が多い。かつ、ひとたび発病すれば他に感染を及ぼす恐れが大きいため、結核予防に関して特別の措置を講ずる必要がある。
 このため当委員会では1993年に「医療関係者の結核予防対策について」の指針を発表し、引き続き専門誌に解説を行うなど啓発活動を続けてきたが、最近病院などにおける結核発生事例がマスコミでとりあげられることが多い。これらの多くは初発患者の発見の遅れが関係し、さらにその後の対応も必ずしも適切であったとは言い難い。
 結核の院内感染の防止には安全衛生管理体制の整備が必要であることから、前回の勧告では対策実施の義務と監督責任などにも言及したが、今回は健康管理、環境上の感染防止(作業環境管理)、個人の感染防止(作業管理)、職員の衛生教育、結核患者発生時の対応などにつき改定補足するとともに、委員間の異なる意見を集約して当委員会としての統一的な見解を表明し、改めて関係者の注意を喚起することとした。

註:本稿での用語は下記とする。
 「医療施設」は、医療機関のみならず老人福祉施設、検査機関ならびに医学部・看護学校など医療職の教育・養成機関を含む。
 「医療関係者」は、医療専門職に限らず各種実習学生、医療補助者、事務職員、給食関係職員、院内店員など医療施設で業務に携わるすべての職種を含む。
 「雇入れ時」は、入学時、採用時、配置転換時などを含む。
 「院内感染」は、病院のみならず「医療施設」における。「医療関係者」ならびに患者・受診者などの利用者間における結核感染を含むが、医療事故としての接種感染は除く。


1.健康管理


 医療施設の管理者は、結核予防法および労働安全衛生法などに基づく各種の健康診断を適切に実施するなど、関係者の安全衛生管理の徹底を図らねばならない。

(1)健康診断
1)ツベルクリン反応検査の追加
雇入れ時の健康診断に際しては法令に定められた検査項目のほか、40歳未満の者にはツベルクリン反応(以下、ツ反応と略記)検査を実施し、その結果が強陽性以外の者にはおおむね2週間後に再度ツ反応検査(二段階試験)を行うことが望ましい。
 定期健康診断に際しても必要に応じてツ反応を追加する。

[見解:1] ツ反応検査の適用年齢
 一般住民の定期外健康診断では、ツ反応検査の対象は29歳を上限としている。これは以下のような理由による。
@ 30歳以上の者は結核予防法上化学予防(マル初)の対象とされていない。
A 30歳以上の者はBCG接種の経皮接種採用ならびに定期化(間引き)以前に濃密な接種を受けており、そのためいまだに強いツ反応を示す者が多い。
B 30歳以上の者は結核既感染者も多い。
C 30歳以上の者にツ反応検査をしても、上記の理由などにより最近の患者との接触で結核感染が新たに起こったか否かを判定するのが困難であり、かつその後の適切な予防的措置を指示できない。
 しかしながら、医療従事者のように、結核感染に曝露されるリスクが特に高い集団にあっては、一般を対象とした制度とは別により慎重な対応をすべきであると考える。
 したがって、当委員会では40歳までをツ反応の対象としたが、すでに患者が多発しているような濃厚な感染の疑われる状況では、さらにこれ以上の年齢の者を対象とすることにも意義がある場合もあると考える。

[見解:2] ツ反応の二段階試験
 BCG接種後のツ反応は、接種後の時間の経過とともに弱くなる。弱くなったときにツ反応検査を行うと、これが刺激となってツ反応性の回復(免疫記憶の増強)が起こり、その後の反応は最初の反応よりも強くなることが知られている。これは、ブースター現象、または回復効果と呼ばれ、初回の検査から1〜3週間経過するとみられる。
 雇入れ時のツ反応検査の後、結核感染源との接触が疑われて再度検査を行い、雇入れ時の反応よりも強い反応が見られた場合には、新たに起こった感染によるものと解釈されやすいが、ブースター現象によることも大いにあり得る。
 当委員会ではこのようなことを避けるために、雇入れ時には1〜3週間の間隔をおいて2回ツ反応検査を行い、2回目の反応をその後の検査に対する対照(べ一スラインの反応)として記録することを勧めることとした。
 米国では、二段階試験を行うのは初回の検査で陰性の者に限定しているが、これはBCG接種を行っていないため、もし初回検査で陽性ならば「結核既感染」と判断できるからである。日本では初回の検査で陽性であっても、そのような反応を示す者の大半は(特に強陽性以外ならなおさら)未感染者と考えられるので、陰性者以外にも二段階試験を行う必要があるとした。

2)既往歴の詳細聴取
 雇入れ時には結核の既往歴ならびに過去における結核の定期および定期外健康診断の結果およびツ反応の成績・BCG接種の有無を把握し健康診断個人票などに記録する。

註 1:ツ反応の記録に際しては陰性・陽性等の判定区分のみでなく発赤経をmm単位で記載し記録する。

3)その他の留意事項
 健康診断に際しては、法令による対象年齢以外の者を含む全員に胸部エックス線検査を実施する。この際、未受診者がないよう特に医師の受診率の向上に努める。
 胸部エックス線検査に際しては、繊維硬化型と思われる所見を安易に治癒型とは判定せず、必ず前年度の胸部エックス線写真と比較読影を行い前年度に所見がみられないときには要精検とする。

(2)事後措置
1)BCG接種
 ツ反応の二段階検査法により、第2回目が陰性の者および必要と思われる者には法定外ではあるがBCG接種を行うことが望ましい。
 これによりBCG接種を受けた者は2ヵ月後の早い時期にツ反応検査を実施する。

註 2:結核患者の診療機会が少ない医療施設などでツ反応が陰性であってもBCG接種を実施せずに経過観察することも採りうる選択である。この場合は、定期健康診断および患者発生時の定期外健康診断でツ反検査を実施し、感染を疑った場合に化学予防を指導する。

[見解:3]雇入れ時のBCG接種の意義
 成人ないし16歳以上の者に対するBCG接種の意義については、一般的には議論の余地がある。それが初接種であれば、よく知られた英国医学会の無作為対照試験(14〜15歳を対象)、スウェーデンの兵士での観察、その他から効果については証明されているといえる。しかし、再接種に関しては、一部残存しているかも知れない(これも不明であるが)中学校以前に行われた接種の効果に追加するだけの効果が果たしてどれほどあるのか確たる証拠はない。さらに、先だって行われるツ反応検査で「陰性」、つまり発赤経が10mm未満の者を選抜して再接種の対象とすることの妥当性については、過剰・過小という両方向の過誤の可能性があり、その程度についても知られていない。これらの問題は当学会としても今後の重要な研究課題である。
 上記の不確実さを残しながらも当委員会として「ツ反応陰性者」を対象者としてBCG接種を勧奨するのは以下のような考えによる。なお、BCG接種を受けた者も、ツ反応陽性のため接種を受けなかった者も、結核既感染者でない限り結核感染に対して万全の抵抗力を持っていないことに留意すべきである、
@対象者はほぼ確実に結核未感染である。
A対象者はBCG既接種で多少なりとも接種後免疫をもっている可能性はあるが、陽性者に比して相対的に接種後免疫は弱い。さまざまな水準の接種技術で接種された者の集団の中では、接種後のツ反応が弱い者は、弱い接種を受けた(ゆえに接種後免疫は弱い)可能性が大きい、
B過去の接種による免疫が残存している個体への追加接種の効果は、ツ反応の変化からみる限り人間でも皆無ではない。


2) 化学予防
a.平常時:雇入れ時健康診断もしくは定期
健康診断で実施したツ反応検査が強陽性で、かつ前回のツ反応の記録が明らかな者で、その成績と比較して増強が著しいときは、その間の感染の可能性が高い。これらの者の事後指導には特に留意し有症状時の早期受診を指導するほか、必要により化学予防の対象とする。
b.患者発生時:院内で感染性結核患者が発生し定期外健康診断で実施したツ反応の発赤経が30mm以上あり、かつ前回(雇入れ時のべ一スライン等)の反応よりもおおむね10mm以上大きくなった場合には最近の感染の可能性が大きいので化学予防対象者選定の目安とする。
c.胸部エックス線写真:肺結核による繊維硬化型の所見を認め、かつ治療歴もしくは化学予防歴のない場合は化学予防の対象とする。

註 3:これら化学予防の対象者のうち30歳以上の者は、現行の法定外の措置であるので公費負担の対象とはならない。


[見解:4] 化学予防の適用基準
 ツ反応検査の成績に基づいた化学予防の適応の基準としては、厚生省の室長通知「初感染結核に対するINHの投与について(平成元年2月28日健医感発第20号)」があるが、これは主に一時点の検査結果に基づく基準である。
 当委員会で扱うのは主として雇入れ時のツ反応(べ一スラインの反応)と、感染源と接触したときのツ反応成績と、その比較の解釈である、これに対する合理的な基準は未だ確立されていないので判断は現場に委ねられるが、当委員会では一つの考え方として対象年齢を限定せずに暫定的に上記の基準を提唱した。
 a.は主として感染源との接触の明らかでない平常時に適用される基準で、b.は感染源との接触が疑われる際の基準である。したがって、a.の適応を選定するに際しては過剰にならない配慮が必要である。
 bの前半の「30mm以上」は上記室長通知による条件、後半の「10mm以上」はツ反応検査の変動幅(実験誤差)についての議論による。これまでの知見から同一個人のツ反応の測定にかかる実験誤差(測定の標準誤差)は2mm程度であり、これに注射、検査時期の違い等の誤差要因を加味すれば、同一個人に二時点で行われたツ反応の差の標準誤差は4mm程度、またその95%信頼区間は8mm程度と推定される。このような議論から10mmを一つの基準とした。
 この基準は暫定的なものであり、現実の状況によっては柔軟に対応する必要がある。例えば接触者検診の時点ですでに続発例が発生していて、集団的に感染があったことが確実な場合には、緩やかな基準を適用して化学予防を多く指示することも必要になる。

3)適正配置
 雇入れ時のツ反応陰性者は、BCG接種によりツ反応が陽性となるまで、原則として感染性の結核患者あるいはその疑いのある患者が収容されている病棟への配属はしない。

 註 4:頻回のBCG接種にもかかわらずツ反応が陽転しない者(難陽転者)が1%程度みられる。これらの者はBCG接種の技術が正しく行われているならばツ反応が陰性でも効果があるといわれているので配属が可能である。


2.環境上の感染防止(作業環境管理)


1)空調設備の整備
 結核患者を収容する一般病棟の中の結核病室あるいは結核病棟単位(以下、結核病室)においては、空調設備は外部から空気をとり入れ、排気は直接外へ放出する独立した型のものとする。結核病室からの空気が他の病室等を循環してはならない。

 註 5:結核病室および気管支鏡検査、気管内挿管、吸引、吸入など咳を誘発させる医療行為を実施する処置室などの室内空気圧は、外部に対して陰圧とする方向で施設の改善を図るのが望ましい。

2)安全キャビネットの設置
 臨床検体としての喀痰や培養菌などを取り扱う細菌検査室などは、バイオハザード対策から外部に対して陰圧とし、安全キャビネットを設置する必要がある。

[見解:5]殺菌灯(紫外線灯)の使用
 飛沫感染の危険性の特に高い区域の室内空気や循環気流の殺菌を目的とした殺菌灯の使用は、米国の声明では重視されている。わが国では、これまで殺菌灯の効果に関しては一般的には懐疑的な意見が強く、またそれを議論するだけの経験もない。一方、人体に対して全く無害なものではないため、当委員会では当面の日本での使用についてはとりあげなかった。しかし、これは殺菌灯そのものの有効性を全面的に否定するものではない。

3.個人の感染防止(作業管理)

1)安全マスクの着用
結核感染を特に受けやすい救急処置や気管支鏡検査の操作時ならびに多剤耐性結核菌を排出する患者などの診療に際しては、結核菌が通過しないようなマスクの着用が望まれる。

 註 6:感染の危険が高い者に対しては、従前のガーゼマスク、外科用マスクは無効であるので、米国のCDC(疾病管理予防センター)のガイドラインに適合したNIOSH(労働安全衛生研究所)認定のタイプN95微粒子用マスクを使用するのが良い。

 註 7:救急により転送された患者は病歴が不明なことが多いが、結核症である場合は挿管操作、ネブライザーなどによりエアロゾルが生じて室内の空気が汚染され、周囲に感染を及ぼす恐れがある。気管支鏡検査実施中の結核患者が飛散させる結核菌の感染単位数は極めて高いので必ず適切なマスクを使用すべきである。


2)予防衣の着用
 咳を誘発させる検査などに際しては作業衣を着替えて必ず予防衣を着用するほか、マスクなどによる防護も必要である。
 密閉容器のキャップの開封、検体の磨砕、振盪、ピペットの操作などはエアロゾルが発生する危険が大きく、安全キャビネット中での操作が勧められている。時に飛散した菌が気流に乗り、他の区域に勤務する職員に感染を起こす危険性もあるからである。

 註8:細菌検査や病理解剖に際しては下記など関連学会の指針による感染防止のための基本操作を厳守する。
 近藤雅臣:日本細菌学会バイオハザード防止指針について、日本細菌学会雑誌、1989;39:881-903
 日本病理学会:病理学領域における感染防止対策(昭和63年9月)


4.職員の衛生教育


 院内感染を起こさないためには職員の結核教育と医師の結核症の診療と適切な治療能力の向上が大切である。

1)健康教育による感染防止
 職員すべてが結核の感染・発病に関する正しい知識を持つようにし、患者などの教育に際しては、咳をするときはハンカチやタオルで口をおおう習慣をつけさせたり、面会・診察・病室を離れるときなどにはガーゼ・マスクを着用するよう指導をさせる。これにより飛沫核による結核菌の飛散を防止できる。

2)速やかな診断
 予診の段階で咳嗽・喀痰の持続を訴える患者には診察前に喀痰の塗抹検査を実施したり、結核を疑われる紹介患者は優先的に診察するか他の待合室へ案内するなど他の患者と隔離することも必要である。

3)連絡通報体制
 診療中の患者の喀痰の塗抹検査で結核菌が陽性であることが判明した場合は、直ちに関係者に通知する体制を整備する。これにより発見患者に対して効果的な治療を実施し早期に排菌を止め、他への感染を防止することが可能となる。

5.結核患者発生時の対応


1)患者発生届
 医療関係者に結核患者が発生した際は、診断医師は結核予防法の定めによる届出を必ず行い、場合によっては必要な対策につき保健所と協議をする。

 註 9:結核の届出の対象には、結核と診断されたが化学療法開始前に死亡した例、死亡後に結核菌検査もしくは病理解剖により結核と診断された例を含む。
 将来的には、検査室での抗酸菌検出情報に関するサーベイランス体制も必要である。

 註10:小児科、新生児科、産科、腎透析施設、および骨髄移植その他の免疫抑制状態の患者を多く収容する施設や病棟に結核患者(職員もしくは受診中の患者を含む)が発生した場合は、特に徹底した定期外健康診断が必要になるので保健所と協議して適切な対応を行う。


2)定期外健康診断
 医療施設の関係者から結核患者が発生した場合、医療機関であるとの理由から自施設のみで対策を講じる場合がしばしばある。しかし、法令による届出に基づき保健所長は必要により結核予防法第5条による定期外健康診断を行うので、医療機関はその指導のもとに事後対策に応じなければならない。
 また、地域の枠を越えるような極めて大規模な集団発生が予想される場合や、社会的影響が大きい場合には、行政機関と協議した上でさらに高度の技術的支援を日本結核病学会等に求める必要もあろう。

3)結核感染防止委員会
 医療関係者が結核を発病し他への感染の危険度が大きい場合には、院内に設置されている安全衛生委員会・院内感染対策委員会などは、名称のいかんにかかわらず所轄保健所の指導により蔓延の防止にあたる。

4)常時監視体制  医療機関においては当該施設が結核感染にさらされる危険を予知するため、結核菌塗抹陽性患者の年間診療件数を把握することが勧められている。これにより結核感染のリスクを知ることができるが、対策にあたっては管理体制を明確にするほか具体的なマニュアルなども作成する必要がある。

6.おわりに


 ひとたび病院内において結核集団感染が発生した場合は、その社会的影響は極めて大きい。また、これにより医療機関に受診中の患者が結核を発病し、特にそれが小児であれば容易ならぬ事態を招く恐れがある。
 わが国では、医療関係者、特に看護婦、臨床検査技師の結核罹患率は同年齢層の一般住民に比し著しく高いことが知られている。したがって、医療関係者の結核の発病から患者を巻き込んだ病院内の結核集団感染に発展する危険性を常にはらんでいるといわねばならない。
 結核の院内感染は生じないように万全を期さねばならないが、最善の努力をしでもこれを完全に防ぐことは不可能である。したがって、不幸にして結核の院内感染が生じてしまった場合には、その規模を最小限に食い止める措置を講じる必要がある。

(平成9年12月)
日本結核病学会予防委員会
委員長志 村 昭 光
委員 立 野 太刀雄
志 村 昭 光
渡 辺 洋 宇
亀 田 和 彦
津 田 富 康
阿 彦 忠 之
前 田 秀 雄
下 方  薫
宍 戸 真 司
臨時委員森   亨山 岸 文 雄
前委員長)







資料7

健医感発第9号
平成9年1月31日
 |都道府県|
各|政令市 |衛生主管部(局)長殿
 |特別区 |
厚生省保健医療局
エイズ結核感染症課長


結核の集団感染防止対策について


 近年、我が国の結核対策は組織的な推進のもとに充実・強化され、加えて経済の発展に伴う生活水準の向上、医学・医療技術の進歩等とも相まって、結核の状況は全国的に改善がされてきたところである。
 しかしながら、最近、本人、家族はもちろん、医療従事者においても発病当初、長い風邪の症状と思い込み、やがて重症となり集団感染を引き起こす事例が、事業所、病院、幼稚園、学習塾、学校などの集団生活の場所において多数見受けられるところであり、過去3年間に発生した事例は別紙1のとおりである。
 これら事業所等における患者の重症化及び集団感染を予防する上で、最も重要なことは、患者の早期発見、早期治療であることにかんがみ、結核対策特別促進事業費の活用等により、医師等の研修の充実及びポスター、リーフレット等による日頃から受診勧奨を行うなど積極的な感染防止対策を図られるようお願いする。
 また、事業所における健康診断実績等の把握については、昭和44年11月29日付衛発第846号公衆衛生局長通知「事業所における結核健康診断の実施について」により種々ご努力を願っているところであるが、平成7年度公衆衛生関係行政事務指導監査結果を見る限り、その把握状況は十分とはいえないので関係機関との密接な連携のもとにその受診状況等の把握を徹底するようご指導願いたい。
 なお、患者が発生した場合には、二次感染防止の観点から迅速かつ適切な対応が必要となることから、結核予防法第22条及び第23条の規定により医師等が行う届出の期限の厳守等についても併せてご指導願いたい。



資料8



結核定期外健康診断ガイドライン


(平成4年12月8日健医感発第68号の別紙2)



厚生省保健医療局
結核・感染症対策室